子どもは見つけ、大人は考える
10/11・12開催「くんくんウォーク – まちと自然と香りを楽しむワークショップ –」を終えて

常に身の回りに存在し、無意識的に私たちを動かしている「匂い」
お茶の水で行われたワークショップの2日目に参加してきました。


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A&Sは、今年もお茶の水アートピクニックの関連イベントをECOM駿河台で主催しました。10/11・12の2日間、「匂い」をテーマに活躍されているアーティストの井上尚子さんをお招きし開催した、「くんくんウォーク-まちと自然と香りを楽しむワークショップ」です。

1人1本、真っ赤な匂いボトル(くんくんボトル)を片手にまちを歩き、見つけた匂いを採取しボトルにブレンドする。オリジナルのくんくんボトルを完成させるという行為を通して参加者の気持ちはどう動くのか、全く想像がつかない状態で当日を迎えました。

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参加者が集まり、まずは自己紹介が始まります。そしてくんくんボトルとマップが配られ、道順の説明。今回は、三井住友海上の屋上庭園から始まり、ニコライ堂・太田姫稲荷神社に立ち寄り宗教と香りの関係に触れつつお茶の水のまちを探索するコース。

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まち歩きに向かう前に、屋上庭園にはお茶の水ならではの香りが入ったサプライズスパイスがあるとの説明が。井上さんの「お茶の水を象徴する香りを用意しました」との言葉に、参加者の方から「え、学生の匂い!?」と黄色い声。井上さんが過去に大学で行ったくんくんウォークでは、部活中の男子学生の汗の匂いを採取したことがあると話が広がり、最初は緊張した雰囲気でしたが、だんだんと空気が和み始めました。

そして、ついにくんくんウォークがスタート!

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まずは屋上庭園に。入口に生えている金木犀に我先にと匂いハンターが群がります。庭園にはローズマリーを始めとするハーブ類、そして匂いを嗅ぐと頭が良くなりそうなニュートンのりんごの木(!)など種類豊富な植物が生えており、子どもを筆頭に参加者はバラバラになって香り収集に夢中。同じような見た目の葉っぱでも、ちぎって揉むとそれぞれ独特の香りが漂います。

ECOM駿河台・屋上庭園は、1984年、中央大学跡地に三井住友海上(当時:大正海上火災)が新しくオフィスを立てる際に行われた企業緑地活動の一環です。当時企業緑地は珍しく、特に屋上庭園は先進的な活動として話題に。お茶の水にたまたま緑がある訳ではなく、その香りの背景には住民と企業の環境への配慮とその歴史があることを実感。

「カレー!」「おいも!」「コーヒー!」
こどもは発見するのがはやく、サプライズスパイスを見つけてはどんどん匂いの正体を当てていきます。大人は、匂いの正体がなかなかわかりません。

「匂いを当てるのはこどもが得意。
大人はいろいろな匂いを知りすぎていて
どれだかわからなくなってしまうみたい。」

始まる前の井上さんの言葉が頭をよぎります。

質か量か。知識が多ければ多いほど物知りであるように感じますが、知れば知るほどに引き出しが増えていき、どの引き出しを開けるのか選択が求められていきます。こどもは引き出しが少ない分、選択する必要がない上に、引き出しの中身がクリアで濃厚です。引き出しが少なく知識を把握している状況と、博識で選べないほど引き出しを持っている状況と、どちらが本来の「知」に近いのでしょうか。
老若男女が集まるワークショップだからこそ浮かんだこの疑問に面白味を感じ、だんだんとくんくんウォークに魅了されはじめました。

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お互いのボトルを嗅ぎ合って「キュウリの匂い!」「ああ、カレーは強いね」「爽やかだねー」「これ、NGだよ・・・くさい・・・」と一気に縮まる参加者同士の距離。盛り上がる様子を見て、途中から参加されたご家族も。参加者もくんくんウォークの魅力にだんだんはまります。

個性が表れ始めたくんくんボトルを片手に、ニコライ堂に到着です。

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ニコライ堂に入ると、まず香りに出迎えられました。ニコライ堂は、ギリシャ正教とも東方正教会とも呼ばれる正教会の教会で、正教会は伝統的な儀式を大切にします。と、教会員さんからお話しをしていただきました。儀式の一環として、祈りの証である乳香を振りかざす「炉儀」が旧約時代から現在にかけて日常的に行われ続けているために、ニコライ堂はいつも乳香の香りがするそうです。

「香りは空間を区切る役割を持っています。」井上さんの言葉です。日常空間と、神と繋がる空間。公的な空間と、プライベートな空間。実家でリラックスする時にも、お寺や教会で神聖な雰囲気を感じる時にも、建物という立体的・視覚的区切りはもちろんのこと、精神的な部分には香りの力が無意識下で働いているのかもしれません。

神聖な香りに包まれて行われたニコライ堂と乳香の説明に、大人たちは興味津々でしたが、こどもはくんくんボトルに夢中。ニコライ堂から外に出ると、大人を匂いに先導してくれました。

コンビニの前に落ちていたタバコを拾いくんくんする少年。大人は「汚いからやめなさい」と説教モード。しかし私は「なんてするどい観点だ」と思ってしまいました。個人的な思い入れですが、タバコの匂いを身近に感じるようになったのは大学に入ってからです。お茶の水という土地の学生街の側面を表す匂いだなあと。

匂いを意識し散歩をしていると、知識のある大人はハーブなど「いい香りがする物質」を探します。しかしこどもは知識がない分、純粋に目の前にあるものから匂いを見つけ出していました。日常の興味にも同じことが言えると思います。幼少期には目の前のものにいちいち関心を示し、そこから面白みを引き出すことが難なくできていました。しかし今では、まず「面白いこと」を探そうとしています。物事は匂いのように常に自分の周りにまとわりついているのに、吸う前のタバコの匂いの良さに気付かないのと同じで、知る前からつまらなくて取るに足らないものであると、存在することすら意識せずに沢山のことを流して生きてしまっているのだろうな、と。町にある草花の匂いに関心を持たず、綺麗な店で売っている香水の匂いをかいで「香りっていいな」と思うようになったあたりから大人になってしまったのでしょうか。

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もう一人の少年は道の途中に生えていたオシロイバナをくんくん。これには大人たちも群がります。「ちっちゃい頃、この中の白いのをチョーク替わりにして遊んだな」などと、ひとりひとりがそれぞれの思い出をもってオシロイバナと向き合っていました。普段は道の途中の脇役でしかないオシロイバナですが、幼少時代は魅力的な遊び道具。もう遊ぶことはなくなったオシロイバナと「匂い探索」という目的があるからこそ久々に対面し、ノスタルジーに浸る大人たち。

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最終目的地の太田姫稲荷神社に到着。大きなむくの木が出迎えてくれました。
境内では神社特有の木の香りに包まれながら、説明が始まります。

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輪から離れた少年に目をやると、地面に落ち虫に食べられた穴あきの柑橘を見つけた様子。柑橘の皮をちぎると爽やかな甘い香りがします。「いれるといいにおいになるよ」と小さな先輩にアドバイスをいただきました。多めにボトルに入れたら他の匂いが消えてしまい、「(これまでつくってきたオリジナルボトルから)逃げたな」と井上さんからご指摘が。オリジナルに自信が持てずに、周りから評価されそうな匂いに逃げた心情を見事に読まれてしまいました。さすが匂いアーティスト・・・。

そしてついに
くんくんウォーク終了、ECOM駿河台に到着!

小休憩をはさんで、くんくんボトル嗅ぎ合いっこタイムです。

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同じコースからどんな匂いを集めたのか、お互いに興味津々。円になって、ボトルを嗅いでは左隣に回していきます。

素直に色々な匂いを突っ込んだ濃いボトル、
よく鼻を利かせないと感じられないくらい繊細なボトル、
野菜の香りがするボトル、実家の匂いがするボトル、
自分のボトルとちょっと似ているもの/似ていないもの。

同じまちで集めましたが、同じ香りのするボトルはひとつもありません。匂いとその収集過程に、持ち主の人柄が香ります。

最後に香りのレシピのコラージュ作り。

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小学校の図工の時間にタイムスリップしたみたいです。みんな真剣。静かになったと思ったら、誰かが誰かの作品を覗き込んで「うわあ、上手!」なんて声があがったりします。匂いを色や形で表現する、はじめての試みに考え込んで手が止まってしまう人も。行う時間が嬉しく、すっかり夢中になってしまいました。

一通りできあがったタイミングで数人の発表がありました。作品の説明を聞いてやっとコラージュの全貌が掴める作品、ぱっと見ですぐに香りが伝わってくる作品。繊細な性格が香りだけではなくコラージュにまで現れている作品。これまた個性が出ます。

歩いて感じて表現する、三拍子揃った大満足のワークショップに、くんくんボトルを片手に笑顔で解散です。

「匂い」とまち。シンプルな題材にも関わらず、最初から最後まで飽きる事なく存分に楽しむことができる構成に、井上さんが試行錯誤を繰り返し作ってきたワークショップであることが窺えました。まちは自然や人工物で溢れていて、代わり映えのない景色に面白みを感じることはあまりありません。しかし「匂い」という新しい視点を与えられると、新鮮な気持ちで向き合えます。いつもは通り過ぎる当たり前の景色がとつぜん面白い場所に変わる、非日常の経験。アートの不思議な力と、おとなのこどもの楽しみ方の違いを、たっぷりと味わった1日でした。

中畝千明(A&Sインターン)


*香りのレシピ作品はECOM駿河台2Fにて11月21日(金)まで展示中です。

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