モントリオールにおける Socailly Engaged Art

カナダで人口第2位を誇るケベック州モントリオール市は、多くのアーティストやアーティスト志望の人達が集まる、国内でも屈指の芸術の街。市内にはアーティスト・ラン・センターと呼ばれる政府の芸術協議会から助成を受けて運営されている非営利のアートセンターが数多く存在し、近代美術館や現代アート美術館、市営の多目的文化施設・アートギャラリーのネットワークであるMaison de la culture、コマーシャルギャラリー、芸術学部のある大学や美術史を教える大学など、アートに関係した機関が充実している。

モントリオールの町並み 撮影:Gilbert Bochenek

モントリオールの町並み 撮影:Gilbert Bochenek

しかし、残念ながらこれほど芸術の盛んなモントリオールにおいても、Socially Engaged Artになるとちょっと事情が変わってくる。なぜならば「地域住民と共に行う創造活動を通して地域に根付く問題に取り組み、その問題に何らかの変化をもたらすこと」を意味するSocially Engaged Art(以下SEA)というアート実践自体が余り知られていないからだ。その原因のひとつとして「文化と社会の間の橋渡しをすること」という意味合いのCultural Mediationの単なる延長としてSEAが扱われている問題が挙げられるだろう。つまり、市民参加型のプロジェクトを皆一様にCultural Mediationとして扱うことによって、SEAがCultural Mediationの広義の中に埋もれ、実際にどのような実践なのかを広く知らしめる機会を欠いていることだ。

しかしもっと問題なのは、たとえアート関係者の中にSEAに関する知識があったとしても、これ自体を「歴とした現代アートの実践」と言うよりは、「市民活動」もしくは「社会福祉活動」に限りなく近い活動としてしか認識していない人たちが本当に多くいるということだろう。これはSEAプロジェクトの特性とも言える一過性、多様性、日常性、そして地域社会特定型と言った様々な要素と、物質性が少なく記録写真やビデオに頼りがちなSEAの作品展を、観る側に「単なる記録」としてではなく、しっかりとした「作品」だと伝わるような構成にすることの難しさなどの要素が、複雑に絡み合って起こる問題のように思える。

また、美術館のように影響力のある大きなアート機関が、アートと地域の関連性や社会の問題に取り組むプロジェクトや、その作品の発信に消極的だと言うことも、SEAの知名度の低さを助長している要因ではないだろうか。2011年にモントリオールの現代美術館、Musée d’art contemporain de Montréal で開催されたTriennale Québecoise (ケベック・トリエンナーレ)を例にとっても、40組余りの地元アーティストが参加する中で、明確にSEAと呼べなくても地域特定の問題を扱っていた作品は皆無だった。それどころか、政治的または社会的テーマを扱っていた作品すらもごく僅かで、これにはこの展示を観た欧州の一部のアーティスト達からも驚きの声が上がっていたほどだ。勿論、単にこれを企画したキュレーターと主催者側の趣向のせいだと片付ける人もいると思うが、個人的にはこの展示が現在のケベックの主流が社会とその問題との関わりを追求するような作品ではなく、比較的売買のしやすい市場型で物質主体のアートであることを象徴していたような気がした。

さて、背景の解説が大分長くなったが、モントリオールでSEAの活動に積極的な団体をここに2つ紹介したいと思う。先ずは2005年に設立されたC2S Arts et Événementという比較的新しい団体で、小学校でアーティスト・イン・レジデンスを行うプログラムと、ケベック州では初となる、要介護高齢者の長期療養施設で行うアーティスト・イン・レジデンス・プログラムの両方を行っている。基本的には8週間のレジデンス期間中に現場職員の手助けを受けながらアーティストが主導する形で多種多様な参加型プロジェクトが実施される。

2011年冬に地元モントリオールのアーティストChristine BraultがCHSLD Providence Notre-Dame de  Lourdes で行ったアーティスト・イン・レジデンスの様子。色々なワークショップの中でBraultのつくった 様々なお手本を参加者達がマネをするという形で制作が進められた。撮影:Serge Marchetta

2011年冬に地元モントリオールのアーティストChristine BraultがCHSLD Providence Notre-Dame de
Lourdes で行ったアーティスト・イン・レジデンスの様子。色々なワークショップの中でBraultのつくった
様々なお手本を参加者達がマネをするという形で制作が進められた。撮影:Serge Marchetta




レジデンス後は最寄りのMaison de la cultureで結果を発表する機会も与えられるため、オープニングにはプロジェクトの参加者やその家族が多く訪れる。このC2Sの設立者の一人であるSerge Marchetta氏によると、普段ギャラリーに足を運ぶ機会の無い参加者たちの多くが、自分の関わった作品が現代アートギャラリーで展示されることに喜びと誇りを感じていると言う。中にはこれを機に自発的に作品をつくるようになった参加者もいて、80歳にして個展を開きアーティストデビューした高齢者もいるそうだ。

2012年5月にMaison de la culture Maisonneuve で開かれたレジデンスの結果発表展示「Fil de vies...  passages」の様子。プロジェクトに参加した高齢者とChristine Braultによるパフォーマンスも行われた。 撮影:Éric Cimon

2012年5月にMaison de la culture Maisonneuve で開かれたレジデンスの結果発表展示「Fil de vies…
passages」の様子。プロジェクトに参加した高齢者とChristine Braultによるパフォーマンスも行われた。
撮影:Éric Cimon



もう一つ紹介したいのが2001年に設立されたEngrenage Noire/Rouage。社会活動に積極的な地域団体とそのメンバー、そしてアーティストの3つのグループによる長期コラボレーション型のプロジェクトを募り、選ばれたプロジェクトに助成金を出している積極行動主義色の強い独立民間アート機関だ。応募の条件として、「様々な社会問題の解決やその問題に対する市民の意識を変えると言う目的が明確なプロジェクトであること」そして、3つのグループが始めから同等の立場でプロジェクトを立ち上げ、全ての進行を全員の総意に基づいて決めていく、「完全な共同制作プロジェクトであること」などを挙げている。運良く選ばれたあかつきには、3つのグループが全員参加する必修の講習会が2日間にわたって開かれ、共同制作中に起こりうる色々な問題やそれらをどう解決していくか等を学ぶことになる。プロジェクトが行われる約1年の期間中、この3つのグループの全員が参加する話し合いの席が月に一度設けられ、進行状況や問題点等が話し合われる。これらの過程を経て、公共の場で社会活動的パフォーマンス等を計画していく。

2014年5月に開かれたワークショップの様子。撮影:Johanne Chagnon

2014年5月に開かれたワークショップの様子。撮影:Johanne Chagnon

ComitéŽ d’éŽducation aux adultes de la Petite-Bourgogne et de Saint-Henri (CÉDA) と言う成人教育を手助けす る地域団体の「識字プロジェクト」の一環として行われた、字の読み書きの出来ない大人に社会でもっと発言す る場をつくり、市民の理解を深めてもらおうと言う試み (2012-2013)。 撮影:CÉDA – secteur alphabétisation populaire

ComitéŽ d’éŽducation aux adultes de la Petite-Bourgogne et de Saint-Henri (CÉDA) と言う成人教育を手助けす
る地域団体の「識字プロジェクト」の一環として行われた。字の読み書きの出来ない大人に社会でもっと発言す
る場をつくり、市民の理解を深めてもらおうと言う試み (2012-2013)。
撮影:CÉDA – secteur alphabétisation populaire


Le Collectif Au pied du murというアーティスト・コレクティブとLe Carrefour d’éducation populaire de Pointe-Saint-Charles という市民団体によるPointe-Saint-Charles 地域再生のための巨大壁画プロジェクト(2012-2013)。 全長80メートルにも及ぶ壁に絵を描いた。撮影:Sandra Lesage(左)、le Collectif Au pied du mur(右)

Le Collectif Au pied du murというアーティスト・コレクティブとLe Carrefour d’éducation populaire de Pointe-Saint-Charles という市民団体によるPointe-Saint-Charles 地域再生のための巨大壁画プロジェクト(2012-2013)。全長80メートルにも及ぶ壁に絵を描いた。撮影:Sandra Lesage(左)、le Collectif Au pied du mur(右)



ここに紹介した団体のようにSEAの活動を行っている団体は幾つかあるものの、現在の状況を見るかぎり、決してモントリオールでSEAに追い風が吹いているとは言い難い。この町でSEAがこれからもっと広く受け入れられ、発達・発展していく為には、これを実践している若手のアーティスト達がもっと積極的に活動の場を広げ、道を切り開いて行かなければならないのは確かだ。

(文:畑山理沙)


畑山理沙(Risa Hatayama)
1997年にカナダに渡り、カルガリーのSouthern Alberta Institute of Technologyで映画制作を学ぶ。2002年にモントリオールに移り Concordia Universityで写真を専攻。2005年の大学卒業後から本格的に画像ベースのインスタレーション制作を中心にアーティスト活動を始める。しかし実祖父の長期にわたる闘病生活がきっかけで2009年頃から高齢化社会におけるアートとアーティストの役割について考え始めるようになり、以降、老いをテーマにした作品や高齢者参加型のプロジェクトを制作し始める。2014年夏にUniversité du Québec à Montréalで Socially Engaged Artと高齢者をテーマにした研究論文・制作で修士を取得。2014年秋にはC2S Arts et Événement の高齢者施設でのレジデンスに参加予定。

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