参加型のパブリックアート Vol.6 <労働環境>

サイモン・グレナン&クリストファー・スペランディオ“ We Got It!”
シカゴ, 1991−93

キャンディーの世界的首都と呼ばれているシカゴで、アーティストと工場の労働者が協同で、彼らのメッセージを込めたオリジナルキャンディーバーを開発したプロジェクト。アーティストはクリエイティブ・チームのディレクターとしての役割を担った。

グレナンとスペランディオは、常にユーモアと身近な題材を使い、さまざまな現場で働く人々に注目し、労働者の環境について新たな視点で考える参加型のプロジェクトを数多く行ってきた。
“WE GOT IT!” では、生産性と企業イメージだけが強調され、常に無機的な製造ラインで働く労働者、流通の段階では個々の顔がみえない製造者の存在に光をあてたいと考えた。そして、チョコレート工場、たばこ工場の労働者ともに、オリジナル・キャンディーバーを製造、管理、流通まで一貫して行い、これらの体験を通じて、労働者が企業内の全体経営を理解し、管理者、労ュ者間のより円滑な対話が成立し、企業にとっても労働者とコミュニティとのより良い関係について考える契機になることを目指した。

この提案は、本社から却下され、製造場所、流通先を見つけるのに非常な困難を伴った。そこで、商業製品として販売し利益を追求するという初期の戦略を変更して、労働階級が直面する問題についてのメッセージを持った製品として、より広く人々の手元に渡る作品とした。このメセージは、オリジナル・キャンディバーとともに組合員に手渡された。

代表者12人は、企業の許可を得て、一週間で40時間のワークショップを行い、
労働と家庭生活、個人と会社、消費者とマーケティング戦略の関係についてアーティストとともに議論した。この作品は労働環境を批判するためのものではなく、むしろ労働者の存在を世に知らしめるという目的に基づいており、従来のモニュメントとの全く異なる手法で、労働者の立場が顕在化された。また、制作の過程で、アート作品の持つパワーを確認して、参加者は労ュ者としてのプライドを共有することができた。

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