芸術と経済的成功  —非営利芸術団体とその観客がもたらす経済効果について—

ART&ECONOMIC PROSPERITY:
The Economic Impact of Nonprofit Art Organizations and Their Audiences

2002年10月、アメリカンズ・フォー・ザ・アーツ(全米芸術団体)は、非営利芸術団体の経済効果について調査結果を発表した。報告書は、2000年から2001年の間に4,000〜300万の人口をもつ郊外の町から都市に至る91ヶ所のコミュニティを調査対象とし、33州における3,000団体と 40,000人の観客から詳細情報を収集し分析した。ここでは、その概要をご紹介する。


アートはビジネスである
調査は、ノンプロフィット・アート・オーガナイゼーション(非営利芸術団体)における経済効果を調査対象とするだけではなく、その観客によってもたらされた経済効果を測ることも含まれている。結果は印象的なものとなった。全米における非営利芸術団体は、1年間で1,340億ドルを生み出したのである。非営利芸術団体による支出は1992年以来、45%増加している。

アメリカンズ・フォー・ザ・アーツ(全米芸術団体)の理事長は、「この調査によって芸術がひとつの産業であり、雇用や税収など多大な経済活動を生み出すことがはっきりと分かった。今後、我々は“芸術はビジネスだ”と発言する時、それは単なるスローガンではなく真実であることを忘れてはならない。」と述べている。

芸術産業は、連邦政府、地方行政の総所得の中で244億ドルを毎年創出している。それに比べると、連邦政府、州政府、地方行政全体で、芸術を支援するために毎年30億ドル以下しか支出していない。財政支出の経済効果は、8対1以上である。行政が芸術への予算を削減する際に、余分な贅沢品を削減するという考えにもとづく場合が多いが、実は観光産業と街の活性化の礎石である非営利芸術産業を削減しているのである。行政が芸術予算を増加させる事はすなわち、税収、雇用、創造的活力を生み出すことにつながる事だと言える。

芸術は街に訪問客を引き寄せ、そのビジネスを拡張させる。芸術鑑賞者を含めその関係者たちはレストランで夕食を食べ、夜中まで駐車場を使用し、店にはより多くの客があつまることになる。従って、芸術予算を減らすという意見がもち上がった際には「誰がいかにして失った分の経済効果を補うのか」という点を問いたださなければならないであろう。

“芸術はビジネスである”。それはもはやスローガンではない。退けることの出来ない経済的真実なのである。


経済効果の定義
今回の調査には、アーティスト個人活動や商業アート、ブロードウェイなどのエンターテーメント部門による支出、また学校やコミュニティセンターなどの非営利芸術団体による芸術活動については含まれていない。対象となった団体は、オペラ団体、公共ラジオ、歴史博物館から織物同好会、コーラスグループに至るまでの団体。パブリックアート、カウンシル、公共施設又は美術館、または地域で独自の予算を持ちコミュニティの文化的生活に大きく貢献している団体までが含まれている。

非営利芸術団体による産業の影響力は推測できるものではあるが、今回の調査においては、非営利芸術団体の活動とその観客がコミュニティにおいて支払った金銭により生じた雇用(フルタイムと同等の職)、世帯の所得(給与、労賃、財産収入)、行政の歳入(税金、その他)という側面の経済的効果が考察されている。

フルタイムと同等の雇用とは、雇われた労働の総計である。注1.住民世帯の収入(しばしば個人所得)は、給与と労賃や企業家の所得が地域住民に支払われたものを指す。食事、住宅、担保、その他の生活経費に対する支出である。

注1. 経済学では、フルタイム同等の雇用数を定義として扱い、被雇用者数の全数はパートタイム も含むため、正確な雇用状況を示さないからだ。
※調査担当した経済分析専門者は、地区別の経済産出効果表(インプット・アウトプット表)を採用し、経済波及効果に関する信頼性の高いデータを作成した。



非営利芸術団体の経済効果
非営利芸術団体とは雇用主であり、生産者、消費者、商工会のメンバー、地域のマーケティングやプロモーションを行なう主団体である。非営利芸術団体の支出は、2000年の財政においては、532億ドルを計上した。この支出の影響は多大なものであると言えるだろう。団体所員に給料を払い、生活用品を購入し、サービスの契約を結び、地域社会の中で資産を得る。これらの行動が地元の雇用を支援し、世帯収入をもたらし、地域社会、州、連邦政府への歳入を生み出すことにつながっているのである。

各団体は、2000年の財政(雇用者、地元と外部のアーティスト、管理、材料、施設、習得資産等)、40項目以上の経費がカテゴリー分けられ、全観客のプロフィールを調べた詳細情報が提出されている。調査に返答した団体は、毎年度予算が0ドル〜7660万ドルまでの範囲にわたっている。


非営利芸術団体への観客がもたらす経済効果
非営利芸術団体が他の多くの産業と異なる点は、団体が開催するアートイベントへの観客によってもたらされる膨大な関連支出を持つという影響力であろう。1年間の非営利芸術団体による1,340億ドルの総支出の内、532億ドルは非営利芸術団体によるものであり、808億ドルは団体の行なうイベントに参加した観客によって支払われたものである。

アートイベントへの参加は、ホテルやレストラン、小売店など地元商業に関連したビジネスを生み出す。例えば、観客がアートイベントを見に言った時に、彼らはおそらく駐車場の料金を支払い、レストランで夕食を食べ、デザートを注文する。その後、家に戻りベビーシッターに報酬を支払う。この支出は、2000年において、1つのイベントで1人につき平均22.87ドル(チケットを含まず)が支出されている。




外部来訪者によるさらなる支出
支出データに加え、調査に返答した対象者の住居郵便番号を調べることによって、イベントが開催された地元者と外部来訪者の分類調査が行なわれた。地元住民は、1つのイベントに対し、平均21.75ドルを支出し、一方外部来訪者は平均38.05ドルを支出している。一般旅行者からも予想されるように、この著しい高支出の原因は、宿泊費、食事、小売、移動(交通)に見ることが出来る。データは、コミュニティがアートに投資した際に割りの高い経済報酬を受けることが出来ることをはっきりと示していると言えるだろう。



文化的観光事業として
観光産業の視点からみても、旅行者を引き寄せることに対し、芸術が効果的な役割を持っている。米国観光産業協会の調査によると、2000年には成人旅行者の65%が自宅から80キロ以上離れた旅行をする際に、何らかの文化イベントに参加している。その内、32%がイベントのために旅行期間を延ばしており、57%が一泊、もしくはそれ以上延長していることが明らかとなった。このことから地元ビジネスは、旅行者が文化イベントを見に行くため、旅行時間を延長することから恩恵を被っていることが推測されるのである。

文化イベントを含む旅行をする“文化旅行者”と、文化イベントを含まない一般旅行者と比較すると以下の結果が得られた。(2001年)

“文化旅行者” 対 “一般旅行者” ・ 631ドル 対 457ドル (一回の支出額)
・ 48歳 対 46歳  年長
・ 20% 対 16%  退職者
・ 23% 対 20%  大学卒
・ モーテルかB&B:62% 対 ホテル:56% を使用
・ 18% 対 12% $1,000以上を支出する率
・ 5.2泊 対 4.1泊 長く滞在
・ 飛行機:22% 対 18% の旅行
・ 44% 対 33% ショッピングをする  

  
ボランティアによる芸術活動への貢献<金銭を越えた経済効果>
また、今回の調査は、ボランティア活動が非営利芸術団体への多大な貢献をもたらしている事を明らかにしている。91ヶ所のコミュニティにおいて平均4,689人の芸術ボランティアが142,083時間を非営利芸術団体に寄附した。これは、220万ドルと同等の価値を持つものである。(平均15.40ドルをボランティアの一時間の収入と見る)。芸術ボランティアは、今回の研究に定義された経済効果と言うものを持っていないかもしれないが、明らかに非営利芸術団体を維持していく事に貢献し、引いてはコミュニティに多大なる貢献をもたらしていると言えるのである。


まとめとして
非営利芸術団体は、米国において1,340億ドル産業である。約500百万のフルタイムの労働力を支援し、世帯所得と政府歳入において数十億ドルを生み出している。非営利芸術団体は、そのコミュニティにおいて532億ドル以上を使っており、その観客によってさらに808億円の支出がもたらされる効力を持つ。レストラン、ホテル、小売店、駐車場、他の地元ビジネスに活力ある収入を注ぎ込むのである。この様に、経済利益を芸術が産出することを説明することにより、芸術に経費がかかるという誤った考えを正すことが出来るだろう。 “芸術はビジネス”であるという事を結論づける事が出来るのである。


参考資料:『ART&ECONOMIC PROSPERITY:The Economic Impact of Nonprofit Art Organizations and Their Audiences』 American for the Arts

(Y・K)

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