NYにおけるパブリックアート非営利団体の活動報告

アジアン・アメリカン・アーツセンターで学生と共に「隠された宝探し」と称した企画を展示中の長沢伸穂さん。彼女のアート、これからの抱負について語ってもらった。

2003年冬、NYを拠点に活動する2つのパブリックアートの活動を含めた非営利団体ついて簡単に話を聞く機会がもてたことから、レポートしていく。一つは、昨年夏、NYロックフェラーセンターに村上隆の彫刻をしかけたことが記憶に新しいNYを拠点にパブリックアートのコーディネートをしている非営利団体Pblic Art Fund(以下PAF)。もうひとつは、日本に進出しているアメリカ企業およびアメリカに進出している日本企業からの寄付から成立つ非営利団体Japan Societyである。


PAFのはじまりは1977年NY市の初代文化行政担当であったFreedman氏が、City WallとPublic Art Councilという二つの組織を立ち上げたことからはじまる。彼は、パーセントフォーアート(公共事業の1%をアート予算に当てる)の立法に貢献した大変重要な人物であり、他の芸術団体がパブリックアートの部門を創立する先駆けとなり、公共の場に作品を置くというパブリックアートの方法論をいち早く確立した。そのPAFは現在、以下の三つのプログラムを軸に活動をしているという。

1. 話題のアーティストとのコラボレーション
これまでNYで発表したことのない作家の展覧会や話題の作家を取り上げるプロジェクト。PAF単独で行うプロジェクトよりも実際は、NY市内の美術館との協力により、美術館の外での展示を手がけるなど、共同プロジェクトが多い。過去にはホイットニービエンナーレやMOMAの屋外彫刻をともに手がけており、私がNYに滞在している間は、ジョージシーガルのパブリックアートがセントラルパークに設置されていた。(上写真)過去には、 AndyGoldsworthy、RoyLichtensteinなどがある。これらの展示の資金源は、NY市からの寄付はもちろん、それ以外にNYを拠点とする企業からの寄付や、作家のもつ財団、作家の出身州からの寄付などである。

2. パブリックアートコンペティション(新人アーティストへのプロジェクト参加の機会)
毎年NY在住の4000人以上のアーティストに対して特定のプロジェクトへのプロポーザルコンペを行っている。実際に参加を呼びかけた人数に対して参加者は、400人程度(約10%)だが、NY市内のアートプロジェクトに参加することができる。パブリックアーティストの教育と参加の機会を提供している。

3. アウトリーチプログラム
Tuesday Night Talkは、春秋各3回ずつ行われるトークショー。旬なアーティストやキュレーターを招いてのレクチャーで過去には、ジェフウォール、シリンネシャット、日本人では、村上隆、森万里子などが名前を並べていた。またアーティストの作品集を中心とした出版事業、会員向けニューズレターの発行をしている。

PAF は、基本的にパーマネントのパブリックアートではなく、3ヶ月、半年など期限を区切って設置しているケースが多いのも特徴である。私がちょうど見たのはセントラルパークに設置されていたジョージシーガルの彫刻であった。作品の背後には、作品の説明板がたっており、作品の紹介から、どういう組織がその場所に設置したかを説明したものであった。作品の設置場所を変えたり、期間を区切って作品を設置することができるというのは、日本にはほとんど根付いていないシステムであり、ここではパブリックアート=パーマネントアートである必要はない、解釈の違いを感じさせた。
尚、今回のレポートには間に合わなかったがPAFの広報にメールインタビューが可能になったため、次回第二段として、もうひとつのパブリックアートの非営利組織クリエイティブ・タイムのケースとあわせてレポートしていきたいと思う。

もうひとつの非営利団体はJapan Societyである。ちょうど日本の水戸芸術館で展覧会をしている「オノヨーコ展」を主催した団体で、名前だけ聞くと日本が母体なのかと思われるが、100%アメリカの非営利民間団体である。パブリックアートを専門とした非営利団体でないが、プロジェクトによってはパブリックアートに関するコーディネートもしているという。
JSは、日本に進出しているもしくは日本への進出を考えているアメリカの企業、その逆で、アメリカにすでに進出している日本企業からの寄付金からなる組織で、1907年の創立当時は日本の芸術文化をアメリカに紹介することからスタートした。現在は、文化・芸術面での交流だけでなく、教育、政治、経済にまでその分野を広げ、シンポジウムや語学教育など幅広い活動をしている。一般会員および法人会員からの寄付もあり、年間約800万ドルの運営予算を確保している。私が話を聞くことができた日本人スタッフは、特定の展覧会への寄付金を募るため企業へいかにその展覧会へ寄付することがメリットであるかを説得する役割の仕事を担当していた。そのためにいかに話題のアーティストや実力のあるキュレーターを立てられるかが重要だという。しかし、実際はプロジェクトに対する寄付を断る企業はほとんどなく、100%寄付を得ることができるというのは、企業の文化貢献度の違いを感じた。ちょうど2005年の展示に向けて企業への資金集めに動いているということで、偶然にもその展示はJapan Socityとパブリック・アート・ファンドの共催で行うという。ちなみに村上隆がキュレーションをすることに決まっているということであった。

レポートして感じたことは、どちらの団体もマネージメント力の高さだけでなく、広報の役割が根付いているという印象をうけた。また、活動内容が広く一般に認知されるようなプログラムを組み立てることによって、結果的に寄付金集めに相手を説得する一つの材料となることにつながるのだろう。
また、複数の非営利団体が協力してひとつのプロジェクトをプロデュースしたり、美術館やその他の組織と共同でプロジェクトに関わる方法は、今後パブリックアートに関する非営利団体が日本でできるとしたら、よい参考となるのではないだろうか。
(M・F)

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