ART & SOCIETY RESERCH CENTER

P+ARCHIVE

2013.01.10

P+ARCHIVE2012 第5回ワークショップ 報告

2012年11月29日(木)レコード・マネジメントコンサルタントの齋藤柳子さんをお迎えして、「リテンション・スケジュールの作成とファイリング」が開講され、以下の事について学びました。

 ●リテンションスケジュールとは
 ●本プロジェクトにおけるリテンションスケジュールの作り方
 ●リテンションスケジュール表 作成の実践
 ●紙文書のフォルダーでの整理 実践

●リテンションスケジュールとは
まずリテンションスケジュールの意義と内容、情報の移行の方法について、お話いただきました。
リテンションスケジュール(以下RS表)とは、業務と発生文書名の関係を分析し、体系化させ、文書管理統制の根本的なルールを一覧表で表した物です。文書管理統制の根本的なルールとは、各文書の発生時期、利用のシーン、ファイル名、データが紙媒体かデジタル媒体か、さらには保管計画なども含まれます。RS表は定義された業務の流れにそって資料を整理するので、この表を作る事で、足りない資料を洗いだす事ができ、また一度作った書類を次回以降無駄なく再利用し、参考する事ができるようになります。

11月29日の講座風景

●本プロジェクトにおけるリテンションスケジュールの作り方
本RS表作成には、東京文化発信プロジェクトが発行した『アートプロジェクト運営ガイドラインの流れ』P.11以降に掲載されている業務分類を利用しました。
業務分類は「ブレーンストーミング」、「役割の明確化」、「企画運営」、「準備(会場)」、「準備(広報)」など、アートプロジェクトに必要になる業務の分類と、「ネットワーク構築」「組織・規定」「人事」「経理」など、人・モノ・時間・情報・お金などを管理対象とした業務の分類があります。プロジェクトに必要となる業務は、ガイドラインの流れの中では起案→計画→実施→報告→反省→次の起案、という具合に、一つのプロジェクトが行われれば、それを見直し、次に生かす流れが生まれると定義されています。
(余談になりますが、斎藤さんの見立てでは、プロジェクトに付随した業務分類の内容は、広告代理店の仕事の色が強いようだとの事でした)
実際に存在する資料ひとつづつを目録化した「紙・モノ・資料目録」(P+Archiveリテンションスケジュール表 作業中(記入例 入力規則付き)20121128.xlsx に収録)は、実務で発生した文書をどのようなフェーズで使用したかが、エクセル縦欄「記述レベル>ファイル」のセルに記載されています(データ上はD欄)。

●リテンションスケジュール表 作成の実践
この「紙・モノ・資料目録」に収録された各情報をRS表に当てはめる作業を実践しました。
「紙・モノ・資料目録」に入力された資料の情報を良く見当し、「リテンションスケジュール表 (記入例) (2)」(P+Archiveリテンションスケジュール表 作業中(記入例 入力規則付き)20121128.xlsx に収録)の「手順(分類)」、「ツールNo.」、「発生記録名(ヒナ型)」、「記録内容(ヒナ型)」(データ上はB欄からF欄)と照らし合わせながら情報を補填し、当てはめてゆきます。

リテンションスケジュール作成の実践

・保存年限について
その際には、「紙・モノ・資料目録」にはなかった「媒体種別」や「原本保存年限」「保存年限満了時の措置」など、今後その資料がどのように保管され、いつ廃棄されるのかなど、現物の保管計画についての情報を追記します。
保管計画は資料によって決定の仕方が違います。その後の運用に沿って(今回はアーカイブを作る計画を考えて)決定されるものと、法の定めに従って決定されているものがあります。源泉徴収表や運行計画書などは海上保安庁の定める法定保存年限に沿って保管計画を実施する必要があります。
保存年限は保管する年数を決定する事になりますが、実務で保存期間が具体的にいつからいつまでなのかは注意が必要です。保存年限1年、とされた場合、資料が使用されなくなった翌年度の4月1日〜3月31日がそれにあたります。
さらに法人税施行規則59条に当てはまる資料はさらに次の年の7月1日まで廃棄はできません。(これは株主総会が6月末に行われる慣例をふまえてのことのようです)

保存年限の入力

・原本とは
RS表には、保存する資料の原本が誰によって管理されているのかを記載する項目があります。この時の原本とは押印がされているもの、コピーであっても組織内に一点だけ存在するもの(コピー元原稿は外部に提出された時)など、かならずしもオリジナル=原本 ではありません。

・バイタルレコードの認定
組織の存続に関わるものや、ほかにかわる情報がないもの、紛失した場合業務への多大な支障を生じる記録かどうかをRS表の中で明記します。このバイタルレコードを定めておけば、どのように保管し、非常時に際しどのような手はずが必要かを決定する事ができます。

RS表によって定められた残すべき資料は、大きく組織資源・社会資源・文化資源となります。プロジェクトが終了しても後年の事業に生かされたり、情報公開や人権を守る証拠になったり、教育現場で活用されるような情報として、その後も有効な活用が期待されます。

●紙文書のフォルダーでの整理 実践
今回は閉じる機構がない個別フォルダ(挟むだけの紙製のもの)を利用して、実際に種は船プロジェクトで使用された文書を整理しました。
個別フォルダには見出しをつける部分があります。ここに「固有名詞 内容・形態 年月・期間」の順に適切な名称を記入し、実務の際に見出しをみるだけで内容物の把握ができる用にします。実際に入っている文書も縦書き横書きの形式に沿って、フォルダにおさめます。とじ具を使用するときは、さびたり腐敗しないような素材を十分吟味する必要があります。綴じ紐やステンレス製のとじ具が使われるようです。個別フォルダの表面には「分類」「保有期間」移管と廃棄の「実施年月」があるので、RS表に沿って記入します。

個別フォルダに見出しを記入

●所感
今回の授業は紙資料、プロジェクターのデータ、手元に渡されたエクセルの表の操作と多岐にわたり、ついてゆくのがやっとという感じでしたが、様々な作業を自分の手で行う事ができる内容の濃い講義でした。
リテンションスケジュールを作成することで業務の流れと実際に作られた資料を結びつける事ができることがわかりました。
実際に文書を整理し、保管運用する実務経験がないと、資料がどのように整理され、しまわれ、廃棄されるかをイメージする事は難しいですが、少なくともリテンションスケジュールを作ることでそれぞれ個別の情報が今後どのように活用されるのかの道筋がつけられ、運用に活用されるという事なのだと理解しました。
個別フォルダの扱い方はどのような形状で、どこに記載するのか、なにを使うのか、長い間多くの実務の現場で育てられた手法が盛り込まれていて、大変驚きました。
アートプロジェクトのアーカイブとは新しい分野ではあると思いますが、過去積み重ねられた手法を十分に生かしながら、データも実物も活用されやすい形態に整理しなければいけないと感じました。

(P+archive受講生 中村 良子)