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2025.04.18

袋田病院での現状調査を実施

2023年2月、袋田病院のアート部門に関わる事業の企画・運営を行うROKUROKURIN合同会社より相談を受け、袋田病院におけるアーカイブ構築を目指した現状調査を実施しました。
袋田病院は、茨城県久慈郡大子町に1977年に開設され、地域と深く関わりながら精神医療に取り組んできました。まもなく50周年を迎えるにあたり、これまでの活動を記録・継承する手段としてアーカイブの構築が検討されています。

アーカイブに取り組む意義

袋田病院では、2001年から継続して病院内の活動として造形活動を行っており、精神医療とアートの関係性を考える実践として国内でも先進的な取り組みです。この活動をアーカイブ活動を通じて多くの人に広く伝えることで、病院の歴史や理念を次世代に継承するだけでなく、地域コミュニティとの関係性をより深めていくことにもつながります。資料の保管状況を把握して実現可能なアーカイブ構築の方向性を検討することを目指して、現地に訪問する資料調査を実施しました。

現地に訪問して実施した現状調査

2023年2月20日に実施した現状調査では、資料の保管状況を視察して把握するとともに、病院にいるスタッフの方々からアーカイブに対する考えや思いをヒアリングしていきました。アーカイブの可能性や方向性について的場政樹院長との面談で意見交換を行ったのち、袋田病院の各施設を視察していきました。調査のために、ロケーション情報、収納している棚の概要、保管している資料、調査時に気づいた点を記入できるワークシートを準備し、アートプログラムの概要や資料の保管状況について記録していきました。

アトリエホロス


旧病棟 療養棟2階 アーカイブスペース(写真提供:ROKUROKURIN合同会社)


地域活動支援センター「メンタルサポートステーション きらり」


就労支援事業所「MINA AMIGO」(写真提供:ROKUROKURIN合同会社)

作業療法士の渡邉慶子さんのご案内のもと、アトリエや旧病棟におけるアートプログラムや活動に伴って発生する記録や作品、資料の保管状況について説明を受けました。現場で目で見て確認しながら、袋田病院がこれまで築いてきた地域との関わりや、退院後の生活・就労支援など、精神医療の全体像を理解することができました。

アーカイブ構築に向けた課題と展望

今回の現状調査により、院内の各施設に保管されている資料の所在や全体のボリューム感を把握できました。限られた時間の中ではありましたが、各施設の視察やスタッフの方々との対話を通じて、これまでの取り組みやそれぞれの施設の役割を捉えることができた調査となりました。
この調査はアーカイブ活動の出発点となる基盤となって、「資料の目録作成」「劣化状況の確認」「関係者へのヒアリング」「アートプログラムで制作された作品の保存方針の検討」といった、これから段階的に取り組んでいく作業の道すじを見通せるようになります。私たちからは、実現可能なことから始められる、長期的な視点で続けていくアーカイブ構築のロードマップを提案しました。

袋田病院の「治療文化」

袋田病院の特徴として、精神医療とアートに関わる取り組みに加え、大子町の地域コミュニティとの深いかかわりがあることも印象的でした。こうした背景を踏まえて、院内スタッフや地域の方々と共にアーカイブを構築していく「参加型アーカイブ」の可能性も考えることができます。

長年にわたって地域と連携し、患者に寄り添った医療を実践してきた袋田病院の歩みは、一つの「治療文化」としてとらえることができるでしょう。この文化を記録・継承していくことは、精神医療やアート、地域とのつながりといった多角的な視点からの活用へと結びついていくことが期待できます。

今後も関係者への聞き取りや資料調査を継続しながら、袋田病院のアーカイブ構築を支援していきます。