|ヨコハマトリエンナーレ2017|
オラファー・エリアソン《Green light―アーティスティック・ワークショップ》


〈グリーンライト〉が形成する「we-ness(私たち感)」

1)《Green light―アーティスティック・ワークショップ》後の会場


1 社会に関わるアートの祭典 〜 ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス 「接続」と「孤立」をテーマに、世界のいまを考える
 ヨコハマトリエンナーレ2017は、「島と星座とガラパゴス-接続と孤立」をテーマに、2017年8月から11月まで、横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館を主会場として行われている。その運営は、一人のディレクターをおかず、三木あき子ら3人の共同ディレクションである。また、トリエンナーレの構想は、養老孟司、鷲田清一、リクリット・ティラヴァーニャ、スプツニ子!など、それぞれ異分野で日本を代表する知識人やアーティスト、海外のアートディレクターなど、7人の構想会議のメンバーによって行われている。会期前から会期中にかけて、様々なゲストを招いたトークセッションであるヨコハマラウンド等、たくさんのイベントが行われる。総じてこのトリエンナーレ自体が協働的な作業の成果であり、一つの焦点を結ばない多中心的で多義的な構造となっている。今、日本は毎年たくさんの国際展が行われる状況にあるが、日本における国際展の草分けとしてのヨコハマトリエンナーレは、単にアートの祭典ではなく、広く現在の日本の状況を反映し、そこでの様々な社会的課題を取り上げたものとなっている。特徴的なのは、横浜美術館のファサードを飾るアイ・ウェイウェイの難民の救命胴衣やゴムボートの作品が象徴するように、社会と関わるアートを前面に出していることである。

 横浜美術館館長でディレクターズの一人逢坂は、今回のトリエンナーレのキーワードとして、「孤立した人々をつなぐ」「伝統と現代をつなぐ」「横浜の歴史、世界の歴史を複数の視点で読み解く」「異文化の混交」「意外な接続」「国家、土地、所有、境界」「震災、福島、記憶」「個と集団」「個人史と接続」の九つをあげている。数多くの出品作品をそれらのキーワードで観ていくとよいだろう。

2) 展示室の様子

福島第一原発事故を扱ったDon’t follow the windや川久保ジョイ、東日本大震災を扱った畠山直哉や瀬尾夏美、戦争の歴史を扱ったワエル・シャウキー、ブルームバーグ&チャナリン等、興味深い作品は多数あるが、ここでは、オラファー・エリアソンの《Green light―アーティスティック・ワークショップ》を紹介する。ヨーロッパの難民問題を契機に2015年から構想されたこのプロジェクトは、2016年からウィーン、ヒューストン、ヴェネチアで行われている。横浜でも会期中に何度かワークショップが行われ、展示だけでなくその全体が今回のトリエンナーレの作品となる。


2 ワークショップとは
 この分野のパイオニアである中野によれば、「ワークショップ」という語は、もともと「仕事場、作業場」の意味であり、演劇や美術、まちづくりなどの分野で様々な実践が行われてきており、「講義など一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学びあったり創り出したりする学びと創造のスタイル」であるとまとめている。そこでは、「参加」「体験」「グループ」がキーワードであり、参加者同士の相互作用や多様性の中で、双方向的、包括的に学習と創造が目指される。ワークショップは、教育におけるアクティブ・ラーニングの動向とも関連し、現在各方面で盛んに行われている。

3 《Green light―アーティスティック・ワークショップ》
 実際そこでは、何がおこなわれているだろうか。ウィーンやヴェネチアでは、難民の方がスタジオ・オラファー・エリアソンのスタッフや地元のボランティアとともに緑に輝くランプ〈グリーンライト〉を作る作業に携わった。完成した〈グリーンライト〉は、250ユーロで販売され、その収益は全額難民支援に当てられる。ワークショップではランプの製作だけでなく「Shared Learning(共有された学び)」が行われる。その国の言語の習得(ウィーンならドイツ語、ヴェネチアならイタリア語)、身体表現、音楽、スポーツ、セラピストによるカウンセリング等の複合的な内容で、コミュニティに溶け込むことを目指す。ワークショップでの学び合いは双方向的で、教師と生徒という関係ではなく、全員が教え、学ぶ立場にあり、難民と支援者との双方向的で対等な関係を目指す。

3) 理解講座



 横浜ではShared Learningは、難民を助ける会や難民支援協会、移民の若者支援組織kuriya等の協力を得て、「理解講座」として8月から9月に行われている。トリエンナーレのサイトで募集された参加者は、理解講座を通してシリアの難民問題や、難民を受け入れる地域の立場で考えるワークを行い、日本で生活する移民の若者達のライフヒストリーを学んだ。10月にも意欲的なワークショップの企画が予定されている。

4 グリーンライト
 〈グリーンライト〉は、オラファー・エリアソンの長年の友人で共同研究者であったアイスランドの
建築家・数学者エイナール・トルシュタインの長年の研究成果から生まれた十二面の幾何形態である。 重なる二つの立方体を想定し、頂点を通る対称軸で回転してずらしていき、互いの立方体の二つの面が 交わる際にできる二本の稜が黄金比で分けられるところでカットした形態である。ランプは、18本の三 角材と8つのプラスチックジョイントからなる。三角材の表面は緑の染料でグラデーションに彩られた ものや白木のもの 3 パターンある。角材の内側はLEDの光を反射するよう白い塗料で塗られている。そ の内部には、緑と白どちらかの色の糸が、外形と呼応するリズミカルなパターンで張られており、優美 な形態を見せる。その美しさは、グリーンのLEDを入れることで一層際立つ。

4) グリーンライトに至る探究の過程の模型




 Green lightは「青信号」の意味である。緑に光るランプは、様々な苦難を体験している難民を受け入れる歓迎の気持ちを表し、自由や希望の象徴でもある。単体でも美しい〈グリーンライト〉だが、複数を組み合わせることで複合的な形態に発展していき、多様なアレンジが可能である。組み合わされた〈グリーンライト〉の総体としての形の展開の複雑さや意外さ、そしてそれでもなお統一感を失わない全体の形態は、異なる背景を持つ個人個人が集まり、多様さを保ちながら調和するインクルーシブなコミュニティという構想の最適なメタファーとなる。

5) グリーンライト(LED装着前)




5 「we-ness(私たち感)」とは
 ヨコハマトリエンナーレに寄せたビデオメッセージの中でオラファーは《Green light―アーティスティック・ワークショップ》が「包摂」をテーマとしており、強制移住、難民、周縁化された人々、強制移動、社会から排除された人々の問題に向けたプロジェクトであることを説明している。ここで繰り返し用いられるのが「we-ness(私たち感)」という言葉である。このwe-nessとはなんだろうか。オラファー・エリアソンはウィーンの文化財団TBA21が企画したイベントで、コペンハーゲンにある名門オーフス大学の人類学者・生物学者アンドレアス・ロストーフと対談している。ロストーフはこの中で、心理学の最新トピックであるwe-modeについて語っている。ロストーフの同僚で共同研究者である哲学者ガロッティと脳神経科学者フリスが提唱したwe-modeは、人間の個体の認知を個体間に拡大する革新的な概念である。この領域の近年の研究では、人間同士の相互作用について、独立した個体同士の1対1のシステムとしてではなくインタラクション自体を1つのシステムと捉え、互いの社会的認知能力を拡張し学習可能性を高めるものとして捉えられるようになった。人同士がインタラクションすることによる効果は単なる加算効果ではなく、それ以上の機能的役割があるということである。オラファーはこの概念を気に入り、それを学術用語のwe-modeではなく、発達心理学者のトマセロも用いているより一般的にわかりやすい言葉としてwe-nessを用いていると考えられる。

6 場のデザインと実践の力
 「アーティストのスタジオは、実践の場であるがゆえに、たった一つの行動が、100個分のアイデアの100倍のパワーを持つのです」
「考えを語っただけで実践した気分になっている人がよくいますが、語るだけでは何も起こりません」

 美術手帖2017年7月号のアーティスト・インタビューで、オラファーは、繰り返し実践することの重要性を語っている。おそらく、6月のヴェネチア・ビエンナーレのオープン時に《Green light―アーティスティック・ワークショップ》に寄せられた、難民を見世物にしている等の様々な批判を意識したものだろう。

 ワークショップの場は、スタジオ・オラファー・エリアソンによってデザインされた〈グリーンライト〉と共通する緑色や幾何学的なパターンが用いられた机や棚が配置され、統一感がある。机の両端は60度にカットされ、直線的に並べたり120度に配置したり、多様なレイアウトが可能である。二つの机の120度の広がりは人が快適に収まることができる空間を生み出す。机の幅は二人の人が協力して作業するのに狭すぎたり広すぎたりせず適度な奥行きである。その快適さは、二人の人が協力する環境という「共通アフォーダンス」を提供する。

6) スタジオ・オラファー・エリアソンデザインの作業用机


 

7) 二人で協力して糸を張るワークショップ参加者

1個の〈グリーンライト〉の組み立てには、必ず複数の人が必要になる。木材とジョイントによる構造は、多少力とコツがいるが一人でも組み立てられる。難しいのは、その内部に張り巡らされた糸である。適切なテンションを保って糸を張るには二人での協力が必要である。しかもそれはマニュアル化されていない。あくまでも作業による手続き記憶としての身体化を通して学ばなければならない。そこに生じるのは、自然に二人の人間が協力をする状況を作り出す「共同アフォーダンス」である。二人は言葉がうまく通じない場合もあるかもしれないが、なんとか意思の疎通を行なってランプの製作という共同の作業に従事し、完成という共通の目標に向かう。

7 二人称アート
 ビデオメッセージの最後に、オラファーは「あなた」と「私」だけでも関わることができると語り、「あなた(You)」と「私(I)」を強調している。あなたと私の二者の関係から何かを始めるのは、一見当たり前のようである。だがその背景にあるのは、人間の心をめぐる学問の進歩である。心を研究する心理学は、19世紀末の自らの心の中を内観する一人称的な研究法から、20世紀に客観的に外側から人の行動を観察する三人称的な手法に移行し、長い間それが科学的であると信じられてきた。ところが、20世紀末にf-MRI等で生きた人間の健康な脳の活動が観察できるようになり、ミラーニューロンの発見があって、21世紀になってようやくあなたと私の二人称的な研究の重要性に気づくことになる。二人称神経科学や二人称認知心理学といわれる学問の誕生である。そして、人間同士のインタラクションによってwe-modeという特別な認知モードへとシフトし、個々の能力の総和を超えた集合的な認知モードが、大幅に学習効率を高めるらしいことがわかってきた。「あなた(You)」と「私(I)」のインタラクションは共同行為を「私たち(we-ness)」として一緒に達成しようとすることで心の共有を可能とし、人間の可能性、創造性を高める。アートは、そのための実践の場を提供することができる。このことは、なぜ参加型アートが重要なのかの根拠となる。科学における二人称科学への転回に倣い、このようなアートを「二人称アート」と呼ぶことにしたい。社会に関わるアートの実践、特に東日本大震災以降の日本のアーティストの活動におけるコミュニティとの関係や当事者性について考える際に有効だろう。

8 エージェンシーと共愉性

8) 組み合わされたグリーンライト


 具体的な存在があるアートは共有がしやすい。〈グリーンライト〉は、目に見える共有しやすい思考の外化物である。「全ての〈グリーンライト〉はエージェンシーを持つ」とオラファーが語っているように、〈グリーンライト〉は、地域の家庭やオフィスに飾られることにより、歓迎や希望、自由というそのメッセージを発し続ける。光に惹かれる人間の習性と安心感を与えるグリーンの光、世界共通の青信号、黄金比を用いた幾何形態という審美的なオブジェクト、それらの要素はそれぞれ普遍性を持ち、人種や文化、宗教の違いを超えた価値の共有を可能にする。

9) 組み合わせることで多様な形態への展開ができる

異なる背景を持つ人々と出会うことは、自らが新たな世界に開かれることになる。そして本来、人間にとって学ぶことは楽しい。仲間とともに学び、知らなかったことを知り、できなかったことができるようになることは、人間にとって適応的であり根源的な喜びだろう。オラファー・エリアソンの《Green light―アーティスティック・ワークショップ》は、このような共愉性(コンヴィヴィアリティ)をもっている。そこでは、その場にいる人々が様々な違いを乗り越えて共に楽しむ共愉的共同体が色々な場面で実現しているのを見ることができる。

 考えたり、アイデアを語ったりしただけでは世界は変わらない。人々が協働することは、個々の能力の総和をはるかに超えるパワーを生み出す。様々な社会的問題や環境の問題がこれまでにない規模で起こり続ける現代においては、何よりも実践することが大事なのである。
(文:細野泰久)




中野民夫 2001 ワークショップ ― 新しい学びと創造の場 岩波書店
アーティスト インタビュー オラファー・エリアソン ヒエラルキーのない、思考と実践をつなぐ場
(聞き手:伊東豊子) 2017 美術手帖 2017年7月号 美術出版社
板倉昭二 2016 We-mode サイエンスの構築に向けて 心理学評論 Vol.59, No.3 心理学評論刊行会
Eva Ebersberger, Daniela Zyman 2017 Olafur Eliasson – Green Light – An Artistic Workshop Sternberg Press

ヨコハマトリエンナーレ2017 http://www.yokohamatriennale.jp/2017/
ヨコハマトリエンナーレ2017 オラファラー・エリアソン ビデオメッセージ https://youtu.be/cPJG83bSpjs
Studio Olafur Eliasson   http://olafureliasson.net/
Green light – An artistic workshop  http://olafureliasson.net/greenlight/

*写真1〜9 撮影:細野 泰久
オラファー・エリアソン
《Green light-アーティスティック・ワークショップ》(部分)
 
Olafur Eliasson
Green light – An artistic workshop.
In collaboration with Thyssen-Bornemisza Art Contemporary
(detail)
Co-produced by Thyssen-Bornemisza Art Contemporary ©Olafur Eliasson


細野 泰久(Yasuhisa Hosono)
美術教育研究 特別支援教育研究  ヨコハマトリエンナーレ2017 《Green light−アーティスティック・ワークショップ 》インストラクター
東日本大震災をきっかけに社会と関わるアートの実践をフォローし、ソーシャル・プラクティスとその教育への応用を研究している。

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S.O.S.レポート「オルタナティブ・スペースが還るとき」

ツアー当日、出発場所となっていたアートラボはしもとではS.O.S.のメンバーによる関連企画「SOMETHINKS Planning by ARTISTS」展が開催されていた。

ツアー当日、出発場所となっていたアートラボはしもとではS.O.S.のメンバーによる関連企画「SOMETHINKS」展が開催されていた。


「オルタナティブ・スペース」という言葉をあちこちで聞くようになって久しい。一見すると定義がし難いように見えるが、例えば千代田アーツ3331のように、ひとつの場を展示スペースとしてはもちろんのこと、講演会やワークショップ、そしてオフィスや地域住民の集会所など、表現活動に派生した様々なアクティビティを行う場と考えて良さそうだ。
 今日、このようなオルタナティブ―すなわち多様な芸術表現を受け入れるための場は、アーティストのみならず市民をも巻き込んで、「アート」の既成概念を拡張する土壌となりつつある。見る/見られる者、表現する者/それを支える者といったあらゆる境界を統合しつつ、時には祭事的な色を湛えながら、オルタナティブ・スペースは開かれた場として芸術と一体化しているのである。
 言うまでもないことだが、表現の場をめぐる格闘は20世紀の芸術を語るうえで重要な位置を占めてきた。戦後、物理的・制度的制限のあるホワイト・キューブを踏み越えたアーティストたちが新たな表現の場を模索し、そのムーヴメント自体が社会やコミュニティを生成する役割を担ってきた。例えば、2000年代初頭から日本各地で開催されるようになったアートフェスティバルという形式は、その系譜を受け継ぐムーヴメントと言ってもいいだろう。とある場を舞台に、作品を介して人と人が出会い、関係性を構築する。作品は一連のプロジェクトの仲介役としての役割を果たし、作品鑑賞を含めた「その場での体験」そのものに価値が見いだされる。ニュートラルかつ“鑑賞体験の純粋性”1を志向したホワイト・キューブから、オルタナティブあるいはサイトスペシフィックな場、そしてそれをもとにしたヒト・モノ・コト間の関係性の構築へ————。このような変遷を踏まえて、以下改めてアートと場の関係性について考えてみたい。というのも、先日伺った相模原のプロジェクトが、この文脈において新たな表現の場の「見方」を示唆しているように思われるからである。
 SUPER OPEN STUDIO(通称S.O.S.)は、神奈川県北部の相模原で活動するアーティストのアトリエを一般に公開するプロジェクトとして、2013年にスタートした。その制作から展示に至るまでの包括的な活動を作り手自らが組織するムーヴメントとして注目を集めている。アーティストの制作現場における展示というと、例えばヤン・フートが1986年に行った「シャンブル・ダミ(Chambres d’Amis:友人の部屋)展」が挙げられるだろう。ベルギーのゲント市の家々を舞台として、フートと面識のある国際的なアーティスト51人がそれぞれの家で制作・展示を行った画期的なキューレーションである。期せずしてこの展覧会は地元アーティスト主催の展覧会を誘発する効果を生み、オルタナティブ・スペースの代表例として知られることとなった。言わばキュレーターがアーティストの自主展覧会の起爆剤としての役割を担ったわけである。
 一方、S.O.S.は相模原に拠点を持ったアーティストが、日頃制作の行われている“実際の”アトリエ(S.O.S.ではスタジオと呼んでいる)を舞台に、キュレーターではなく“彼ら自身の手によって”企画・運営が組織されているという点で、前者とは一線を画している。昨今はTAV GARELLY2やART TRACE GARELLY3など、若手アーティストがひとつの場を基盤として活動するオルタナティブ・スペースが増加しているが、S.O.S.もその一例と言えるだろう。どれも展示活動に派生したアクティビティを、資金調達・運営手法の確立等によって実現可能にしている先例である(左記の過程は、アーティストが自律し、その表現の独立性を保持するためには欠かせないことは言及するまでもない)。
 今回、秋季に開催された「スタジオビジット・ツアー」に参加し、計9か所のスタジオを巡った。インターネットで応募した参加者が貸し切りバスに乗って、1日をかけ各スタジオを巡るというプロジェクトだ。今年度S.O.S.に参加しているアトリエは23組、アーティスト数は述べ110人を越える。相模原市の事業として運営されていた2年間を経て、S.O.S.は2015年からアーティストによって組織された団体「Super Open Studio NETWORK」がセルフオーガナイズしている。ツアー参加者は、美術大学に通う大学生、キュレーター、美術愛好者等で、なかにはアメリカのアートフェアから来たという関係者もおり、実に幅広い。貸し切りバス車内の程よい緊張感は、コーディネーターの久野さん(作家であり、「studio kelcova」のメンバー)のお話を聞くうちに和気藹々とした雰囲気に変わり、ツアーは終始和やかなムードで進行した。

 相模原は政令指定都市として県内で第3位の人口を有し4、東京都南部との県境に位置するベッドタウンである。関東有数の米軍施設拠点・工場地帯として、また多摩美術大学、東京造形大学、女子美術大学、そして桜美林大学が群立する文教地区としての顔を持ち合わせるこのエリアは、3,40代がその人口の基盤を占める5。その一成員であるS.O.S.のアーティストは、先述した大学の卒業生が多く、それに派生したコミュニティを形成しているようだ。彼らは閉鎖された工場の建物などをスタジオとして再利用し、制作を継続している。衣食住を共にするところもあれば、制作のみ、作品の収蔵庫として使用する人もいるが、ビジネスライクな関係というよりは、たまに食事を共にする友人のような(もちろん家族のようなところもあった)、程よい距離感が構築されているように見えた。
セクシュアリティをテーマにした長尾郁明氏の作品(TANA Studio にて)。ポルノビデオの女性器のイメージをグリッドに還元している。

セクシュアリティをテーマにした長尾郁明氏の作品(TANA Studio にて)。ポルノビデオの女性器のイメージをグリッドに還元している。


 久しぶりに友人の家を訪ねるような気軽さでスタジオに案内されると、アーティストが茶菓子を用意してにこやかに出迎えてくれた。或いは、こちらに脇目も振らず制作に熱中するアーティストの横を、「目撃者」として通り過ぎる時もあった。総じて言えるのは、画廊や展覧会を見に行く時のような、「見る者」と「見られる者」という明快な境界線がないということである。或いは、非日常としてのキューブのなかで、「作家」や「作品」と対峙する時のような、どこか“特別な”演出も一切無い。彼らはただ「作品を作る人」として、そこで出迎えてくれる。メンバー同士では普段どんなことを話すのか、建物を改装した時のハプニングや、近所の人が差し入れを持ってきてくれたこと、買い出しが少し不便なこと、そしてその延長線上で制作に繋がる自分のエピソードや、作品に込めた思いが紡がれていく。驚くほど自然に、隣人としてのアーティストの本音を聞くことができるのだ。お互いが話し、耳を傾け合うことで、一人ひとりの作家と対等な距離感でコミュニケーションをとることができる。もちろん先述したように、関係者も来ているので、この機会を機に自分を売り込むこともできる。拠点は相模原としつつ、銀座などのギャラリーで発表をする者も当然いる。つまり、あくまで拠点を相模原に置くことのみが共有されているコミュニティなのである。S.O.S.の代表である山根一晃氏はステイトメントのなかで以下のように述べている。「様々なアーティストが異なる目的のもとに集い、同じような風景の下、同じような食堂でご飯を食べる。そして、この相模原という場所をハブとして、各々がめざすものの為にそれぞれが自らの意思と責任のもと動いていく」。6このように、スタジオという場を起点としたメンバー同士のゆるやかで独立した個人からなる連係が、また新たなアトリエ同士の連係を生み、それが地域住民との共同体へと円環状に波及しているのだ。
 当たり前のことのようでいて、とりわけ日本の社会では、このようなフラットな関係性のなかでアーティストと対峙することは難しかったのではないだろうか。昨今東京藝大の“特殊性”について取り上げた本が話題となったように、アーティストをどこか別世界の存在として、才能や独創性という言葉で区別してしまう傾向は、未だ確かに存在する。昨今のアートフェスティバルも、地域の持つ自然や建造物、温かな人間関係等とアートの共存を目標とする傾向にあるが、そこに展示される作品は“地域の魅力を引き出すことを目的としたアート”であることが多い。それらが良いか悪いかはさておき、あるテーマをもとに輸入されたキュレーション・プロジェクトであることには変わりない。その点、S.O.S.は、相模原という場を基盤として、まずアーティストがそこに拠点を置くことから始まっている。スタジオを構え、地域の人々と隣人として交流し、生活する延長線上に作品制作がある。アウトリーチの結果としてではなく、自然発生的なエンゲージメントの結果として、アートが緩やかに内在する共同体が形成されつつある。
「pimp studio」にて。自動車修理工場を改装したスタジオで、現在11人のメンバーが集う。

「pimp studio」にて。自動車修理工場を改装したスタジオで、現在11人のメンバーが集う。



 日本のアートプロジェクトは現在、2020年のオリンピックに向け発展の途にある。それは同時に、高齢化に伴う諸地域の過疎化、地方産業の衰退、あらゆる文化施設予算の縮小等、山積する問題の切り札としてのアートが推奨されていることを意味する。官民恊働や国際規模でのプロジェクトは、様々なアーティストを奮起させ上述した危機の打開策となる可能性を持つだろう。しかしその一方で、近現代で議論されてきた先導̶追従の垂直的な構図をなぞる危険を孕んでいることは、既に論じられている通りである。S.O.S.は、先述したステイトメントのなかで、彼ら自身の活動を「アートという場のインフラ整備」だと語っている。明確なオピニオンのもとに集った集団でもなければ、地域おこしのためのプロジェクトでもない。ただひたすらに、異なるアジェンダを持ったアーティストがひとつの場に共存し、静かに、しかし着実に相互関係を構築しているのだ。元来共同体にとって、土地は彼らの“包括的な基盤”7であり、根ざす場なしにその継承は困難であった。土地を拠点とした生産活動を営み、その上で個人としての活動をも並行させる共同体は、中長期的なアートの“インフラ整備”を遂行させる上で重要なムーヴメントとなり得るだろう。その意味において、今日における表現の「場」との関わり方は共同体の命脈を左右する重要なファクターである。大地が肥沃に還るその時こそが、時代の起点となるのではないだろうか。
(文:高橋ひかり)



1 ホワイト・キューブ 現代美術用語辞典ver.2.0 http://artscape.jp/artword/index.php/ホワイト・キューブ
2 専属キュレーターがそれぞれのキュレーションによる展覧会を行うギャラリーとして2014年に始動。展示スペースのほかに、ワークショップやイベント等を行うLAB SPACEを有する。http://tavgallery.com
3 NPO「ART TRACE」を母体とした、両国にスペースを持つアーティストラン・ギャラリー。武蔵野美術大学OBOGの主要メンバーを主軸に、期ごとに参加メンバーを公募、展覧会を主に講演会やワークショップなども行われる。同母体の関連事業としては林道郎著「絵画は二度死ぬ、あるいは死なない」シリーズを出版するART TRACE PRESSなどがある。http://www.gallery.arttrace.org
4 神奈川県の人口と世帯 神奈川県ホームページ…http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f10748/
5 平成27年1月1日現在。…http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/toukei/20998/jinko/nenrei/index.html
6 『SOSBOOK 2016』, p4
7 大塚久雄著『共同体の基礎理論』岩波書店,2000年, p12


高橋 ひかり(Hikari Takahashi)
1995年生まれ。神奈川県出身。武蔵野美術大学芸術文化学科在籍。2014年より絵画制作活動を開始、アーティストランギャラリー・ART TRACE GALLERYにおける個展等7回の出展を経て現在 に至る。アートムーヴメントにおける共同体の自律性・持続性に興味を持ち研究をすすめる。

 

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現代アートが、千三百年の伝統と結ばれた。
公開空地プロジェクト2015 プロジェクトレポート

神田明神に奉納された「ハートフレーム」の基調色光:朱赤。 「♥」の赤でありながらも、神社建築の基本伝統色に馴染む色調である。

神田明神に奉納された「ハートフレーム」の基調色光:朱赤。
「♥」の赤でありながらも、神社建築の基本伝統色に馴染む色調である。


■ 現代アートが日本伝統の「習慣」、「場」と“engaged(エンゲイジド)”した日
2015年5月19日火曜日、大安。神田明神。
朝のうちぱらついていた小雨が止み、午後には、時折晴れ間ものぞく天気となった。今年の2月2日から3月14日の間、お茶の水駅前「お茶の水サンクレール」で行われた公開空地プロジェクトで誕生した作品“Heart Light Go-round(ハートライトゴーランド)”が、この日、化粧直しも整い、「ハートフレーム」となって境内に恒久設置され、「奉納式」を迎えた。今年で6回目となる同プロジェクトのエンドストーリーは、東京―神田、日本橋、秋葉原、大手町・丸の内など108の町々の総氏神様である神田明神(神田神社)への奉納、という、まさに、アートが、地域の歴史・伝統・営みと“engaged(エンゲイジド)”する「結び」となった。
神田明神というと、江戸東京に鎮座して1300年近くの歴史をもつ江戸総鎮守の神社である。毎年、初詣の時期には、約30万人もの参拝客で賑わい、都内でも有数の初詣スポットのひとつとして知られているほか、秋葉原に近い、という立地特性から、最近ではアニメの「聖地」化、という現象も起きている。余談ではあるが、奉納式当日、我々の前の奉納者は、「妖怪ウォッチ」の関係者で、「ジバニャン」と「コマさん」の着ぐるみたちが神妙な面持ち?で祝詞に頭を垂れる姿は、なんともユニークな光景であった。
さて、奉納式は、奉納者、協賛社参列のもと、社殿内にて、神職が打つ太鼓の音とともに始まった。祝言葉奏上、お祓い、祝詞奏上、福鈴の儀、玉串奉奠(たまぐしほうでん)、権宮司様ご挨拶、と厳かに続き、約30分間の式で無事に終了、続いて、「ハートフレーム」前でのお祓いの義が執り行われた。作品を前に、奉賛者、関係者一同参列し、神職によるお祓いの後、今回の移設・奉納で大変お世話になった権禰宜(ごんねぎ)様による清め払いが行われ、お清め紙がちらちらと舞う中、点灯式となった。残念ながら、周囲の明るさのせいで、ハートフレームの光はよく見えなかったが、ホワイトグレーに「お色直し」をした作品は、神田明神境内で、新たな時の“Go-round”へと、無事に出帆した。以下、奉納式での権宮司様ご挨拶の言葉からの引用である。
「その(制作・奉納に携わられたみな様の)真心とともに、この素晴らしい作品が、末永く多くの人から愛される作品となり、そして、多くの人々の祈りを、神様へ通じるその仲取り持ちとしての役割を、これから果たしていただくべく、ご活躍をいただきたいと思っております。」
今回の奉納の意義は、まさに、この言葉の中にあるのではないか、と、私は感じた。そして、新たな光が灯ったその瞬間は、アーティスト志喜屋徹氏が、西洋的な文脈の「バレンタインデー」と「♥」を、日本伝統の文脈にのっとった表現に重ねて誕生させた現代アートが、そのモチーフとなった「結ぶ」表現の「素」の姿に原点回帰し、地域社会と、末永く“engaged(エンゲイジド)”した瞬間でもあった。


左)社殿内で行われた奉納式の様子。神職から玉串を授かる奉賛代表者三名。手前より、工藤代表理事、志喜屋氏、新井。右)ハートフレーム前で行われたお祓いの義の様子。

左)社殿内で行われた奉納式の様子。神職から玉串を授かる奉賛代表者三名。手前より、工藤代表理事、志喜屋氏、新井。右)ハートフレーム前で行われたお祓いの義の様子。



奉納式翌日の「ハートフレーム」。既に、おみくじや絵馬が結ばれはじめている。

奉納式翌日の「ハートフレーム」。既に、おみくじや絵馬が結ばれはじめている。


「おみくじ結び」におみくじを結ぶ参拝客。 日本伝統の習慣。

「おみくじ結び」におみくじを結ぶ参拝客。
日本伝統の習慣。




■「奉納」への道筋 3つの「思い」のエピソード
奉納から早くも1ヶ月が過ぎ、紫陽花の咲く季節となった。「ハートフレーム」は、まるで以前からその場にあったかのように、自然に境内の風景に馴染んで、既に沢山のおみくじや絵馬が結ばれている。
何故、このように、初めから、最後に収まるべき「場」が用意されていたかのような「流れ」になったのか、今もって、とても不思議に感じるのだが、このような「流れ」と「結果」が生まれたバックグラウンドには、三つの柱となる「思い」のエピソードがあった、と、今振り返ってみて思えるのだ。その3つについて、ご紹介したい。


奉納式から約2週間後の様子。既に、おみくじでいっぱいである。奉賛者銘板の取り付けも完了。

奉納式から約2週間後の様子。既に、おみくじでいっぱいである。奉賛者銘板の取り付けも完了。































【思いを形にする。】
『参加者が、「思い思い」をメッセージに書いて、参加していく形にしました。みんな表現者なんですね。思いを形にする、表現することで、自分を理解することもできると思うし、人に伝わっていく。思いが形になる世界になると良いなと思いました。』(プロジェクト記録ムービー撮影時の、志喜屋徹氏へのインタヴュートークからの引用。以下、『』内テキストは、インタヴュートークより。)
 時を、2015年1月に遡る。
NPO法人アート&ソサイエティ研究センターの工藤安代代表理事は、今回のプロジェクトが、バレンタインデーからホワイトデー期間の販促催事にからめて行われる、という特性から、『「大切な人への想い」を表せるようなアートを仕掛けたい』、と、考えていた。そこで、相談を持ちかけたのが、2012年の公開空地プロジェクト「ニコニコ来来ドーム」で黄色いビニール傘を素材に、参加型作品を制作したアーティスト、志喜屋徹氏であった。志喜屋氏は、私たちの暮らしのごく身近にある、もともと消費され廃棄される運命のもとに生まれてきた(生産・製造された)モノたちに、普遍的なアートの命を注ぐ、という、言わば、「モノの価値概念」の位相転換を生み出す作風を得意としているアーティストで、大手広告代理店のアートディレクターという顔を持つ。彼が創案したプランは、
1)世界中で、国や文化を超えて親しまれている「愛(Love)」を表すシンボル「♥(ハート)」を、ビジュアルシンボルにする。
2)トランプの「♥」のカードを、願い事を書く「短冊」や「絵馬」に見立て、そこに、参加者(来街者)各々が「愛」を言葉にして書く。(愛のメッセージを集める)
3)言葉として、可視化された「愛」や「想い」を「結ぶ」「場」を広場空間につくる。
4)「光」を、メッセージ性のある感覚的なエレメントとして用いる。
5)「♥」のカードが抜かれたトランプによる造形作品を、“Heart Light Go-round(ハートライトゴーランド)”の内部と、通路空間にインスタレーションする。
という、5つのレイヤーで構成されたプランであった。日本伝統の習慣にのっとった「結ぶ」という行為によって、参加者自身が表現者となり、その表現の集積(時の経過と表現の集積性)によって作品が初めて完成する、というプランである。
かくして、工藤安代代表理事の思いに、志喜屋徹氏の思いが重なり、プロジェクトは「カタチ」を成し始めていた。その後、2月2日から3月14日の間、「公開空地プロジェクト2015」がどのように推移したか、については、本サイトで公開されているダイジェストムービーを、是非、ご参考いただきたい。

shikiya
メッセージ
ハートカード
【「思い」プラスちょっとの行動。】
 私は、今回のプロジェクトに、「五感演出プロデュース」という役どころで参加させていただいた。プロジェクトの制作ディレクションと、ハートフレームの製作、光・音の演出プロデュースである。今までに何度か、他の企画でプロジェクトを共にしている志喜屋徹氏から相談を受けたのが、今年の年明け早々。プロジェクトのオープン予定日まで、既に1ヶ月を切っていた!1月6日に初打ち合わせをし、その後1月31日、2月1日の設置とオープン後の調整に至る怒涛の日々は、今思うと懐かしくさえ感じられるが、そんなミラクルを実現させたのも、「思いの結集」と「行動」であったことは間違いない。ライティングプログラムを担当したLighting Roots Factory代表、松本大輔氏の言葉である。『「思い」プラスちょっとの行動が、物凄いものを作っていくんだな、ということを実感できる41日間でした。』

「記憶の中で、いつかふと目覚めるような感覚風景」をつくることを目指して、音とシンクロするように回り続けた光跡は、3月14日の夜、11時に消えた。いつか、誰かの記憶の中で、再び回りだすことを夢見て。そして、プロジェクトの第一章は、約1500ものメッセージカード(♥のトランプ)を集め、惜しまれながら終了した。サイトスペシフィックなアートインスタレーションに、参加者・来街者の「愛」と「想い」のメッセージと、光・音という「タイムフレーム」を乗せて、プロジェクトは、ハートフルな「時空間芸術」へと昇華した。

左)2月2日~2月14日、バレンタインデー期間の、赤い色光によるライティング。フレーム内部のオブジェの光は、心臓(Heart)の鼓動のように、ゆっくりと明滅する。ハート型フレームのライン状の光は、4つの「♥」のアウトラインにより構成され、全期間を通じて、「♥」が、1ライン点灯(ひとつの「♥」ラインが光る)、チェイス(ひとつの「♥」ラインが回転するように光る)、全点灯明滅(4つの「♥」ラインが全体で光り、ゆっくり明滅する)という発光パターンの組み合わせで、「シーン」が演出された。 右)2月15日~3月14日、ホワイトデー期間の、青と赤の色光によるライティング。ハート型フレームのライン状の光は、特殊な樹脂製導光棒に、LEDライトの光を当て、「面発光」の光のラインを作り出している。また、プロジェクト期間中、公開空地の作品周辺、および、「お茶の水サンクレール」の通路エリアには、作曲家、高木潤氏によるオリジナルの音楽が流れ、「光と音が響き合う環境」がつくられた。

左)2月2日~2月14日、バレンタインデー期間の、赤い色光によるライティング。フレーム内部のオブジェの光は、心臓(Heart)の鼓動のように、ゆっくりと明滅する。ハート型フレームのライン状の光は、4つの「♥」のアウトラインにより構成され、全期間を通じて、「♥」が、1ライン点灯(ひとつの「♥」ラインが光る)、チェイス(ひとつの「♥」ラインが回転するように光る)、全点灯明滅(4つの「♥」ラインが全体で光り、ゆっくり明滅する)という発光パターンの組み合わせで、「シーン」が演出された。
右)2月15日~3月14日、ホワイトデー期間の、青と赤の色光によるライティング。ハート型フレームのライン状の光は、特殊な樹脂製導光棒に、LEDライトの光を当て、「面発光」の光のラインを作り出している。また、プロジェクト期間中、公開空地の作品周辺、および、「お茶の水サンクレール」の通路エリアには、作曲家、高木潤氏によるオリジナルの音楽が流れ、「光と音が響き合う環境」がつくられた。



左) ハート型フレームに取り付けられた、音が鳴る仕掛け(「音具」)。幼児用玩具「ガラガラ」を素材に用い、風が吹いたり、フレームが揺れると、どこか懐かしい印象の音が聞こえてくる。右) 通路空間に展示された作品「光を求めてⅡ」の前で、色光による影の出具合を確認する志喜屋氏。

左) ハート型フレームに取り付けられた、音が鳴る仕掛け(「音具」)。幼児用玩具「ガラガラ」を素材に用い、風が吹いたり、フレームが揺れると、どこか懐かしい印象の音が聞こえてくる。右) 通路空間に展示された作品「光を求めてⅡ」の前で、色光による影の出具合を確認する志喜屋氏。



【「思い」を重ね、未来へ、結ぶ。】
『この(公開空地)プロジェクトの大きな特色というのは、その場所で一度終了しても、また違う場所に移って、形を少し変えて、生き続ける、ということだと思います。…(中略)…クリエーターの方たちの熱い思いが重なり、このプロジェクトは、最初のシナリオ通りではなく、良い意味で、育っていったのではないか、…』(工藤代表理事)
 テンポラリーな公開空地プロジェクトの中で生まれた「思い」をパーマネントに「生き続けさせたい!」そんな純粋な思いと願いが重なり、“Heart Light Go-round(ハートライトゴーランド)”の「永住の地」探しが始まった。その第一目標は、神田明神。工藤代表理事は、お茶の水茗溪商店街会長をはじめ、公開空地プロジェクトでのご縁をたどり、交渉に奔走した。「お茶の水サンクレール」では、3月14日の終了から5月18日早朝の移設当日まで、約2ヶ月間、地下駐車場で作品を保管していただいた。
シナリオにはなかった「奉納」というエンドストーリーは、制作者の思いと、プロジェクトを支えてくださった方々の思いが重なり、強い願いとなって、神田明神に通じた。まさに「結ばれた」結果なのだ。どこか、恋愛、そして結婚へのプロセスに似ている、と思うのは、私だけだろうか?「奉納式」は、今回のプロジェクトで生まれた現代アート作品と地域社会との「結婚式」だったのではないか。今、振り返ってみて、そんな風に感じるのである。

プロジェクト終了後、回収され、NPO法人アート&ソサイエティ研究センターにて一時保管されたトランプのメッセージカード。約1500枚ものメッセージが集まった。

プロジェクト終了後、回収され、NPO法人アート&ソサイエティ研究センターにて一時保管されたトランプのメッセージカード。約1500枚ものメッセージが集まった。



聖橋から神田方面を望む。目には見えない、耳には聞こえない多くの「愛」と「思い」のメッセージが、どれほど眠っているのだろうか。

聖橋から神田方面を望む。目には見えない、耳には聞こえない多くの「愛」と「思い」のメッセージが、どれほど眠っているのだろうか。
































神田明神社殿前の提灯。伝統の灯である。

神田明神社殿前の提灯。伝統の灯である。


6月4日木曜日、先負。神田明神。プロジェクト記録ムービー撮影最終日、夜8時。
「ハートフレーム」の光は、社殿の灯や「献灯」のぼんぼりの灯を背景に、奉納用に新たにプログラムされた光(神職・巫女の装束の色をモチーフにした色光構成)をまとって、静かに佇んでいた。志喜屋氏、松本氏とおみくじを引いた。何と、志喜屋氏に続いて私も、引いたおみくじを「ハートフレーム」に結ぼうとしたら、おみくじが切れたのだ!奉納後初、しかも奉納当事者のおみくじが切れる、という縁起悪い事態に動揺したが、気を取り直してもう一度引き直し、2度目は首尾よく結ぶことができた。ちなみに、おみくじは、志喜屋氏の一度目が「末吉」、二度目が「大吉」、私の一度目が「末吉」、二度目が「小吉」で、どちらも二度目に「吉度」が上がる、という結果になった。松本氏も「末吉」だったことからすると、先んずることなく、怠らず、思いを重ねよ、ということか。

新たに灯った「ハートフレーム」の光。神田明神1300年の歴史・伝統と現代とのマリアージュである。

新たに灯った「ハートフレーム」の光。神田明神1300年の歴史・伝統と現代とのマリアージュである。


■プロジェクトを振り返って
『これだけ街ゆく人たちの心の中に、様々な「思い」、しかも、大切に思う人への「思い」や「愛」という感情があるんだな、ということを実感しました。』(工藤代表理事)

私も同感である。今まで気づかなかった、ごく「身近な愛」と、「誰かに伝えたい思い」の存在に、気づかせてくれた。そして、「ハートフレーム」は、神田明神の境内で、そのような「愛」や「思い」を「結ぶ」フレームとして、末永く親しまれる存在になった。

神田明神「ハートフレーム」の基調色光:白。(朱赤と対を成す) 神職・巫女装束の基本色。(ベーシックであり、かつ、高位の色)

神田明神「ハートフレーム」の基調色光:白。(朱赤と対を成す)
神職・巫女装束の基本色。(ベーシックであり、かつ、高位の色)


このレポートを終えるにあたって、プロジェクトの企画段階から奉納に至る全てのプロセスにおいて、「アーティスト」、あるいは、「クリエーター」という立場で関わった私たちの「思い」を、いつも真摯に受け止めてくださり、そして、そこにご自身の「思い」を重ねて、目指す目標へとナビゲートしてくださったNPO法人アート&ソサイエティ研究センター工藤安代代表理事に、この場をお借りして、心から感謝の意を表したい。

(文:新井敦夫)

新井敦夫(Atsuo Arai)
五感演出プロデューサー。1960年、東京生まれ。音環境デザインのプランナー・プロデューサーを経て、音、光、香り等、五感の相乗効果を活かした環境演出・デザインや、東関東大震災復興応援のためのソーシャルアートの企画・プロデュース、自然エネルギーとアートでつくるイルミネーションの企画制作、等に取り組んでいる。東京メトロ南北線「発車サイン音」のデザイン・ディレクション、高松シンボルタワー「時報」、および、「風のサヌカイトフォン」(讃岐地方に産出する『サヌカイト』という石を用いた音と造形のパブリックアート)の企画・プロデュース等、実績多数。
「シネステティック・デザイン(五感にひびき『感覚の味わい』を生み出すアート&デザイン)」をテーマにした研究・創造活動組織「SORA Synesthetic Design Studio(SORA SDS)」代表。
https://ja-jp.facebook.com/SORA.SDS

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国際シンポジウム 地域・社会と関わる芸術文化活動のアーカイブに関する
グローバル・ネットワーキング・フォーラム

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Archives for Cultural & Art Activities related to Social Environment
国際シンポジウム
地域・社会と関わる芸術文化活動のアーカイブに関するグローバル・ネットワーキング・フォーラム

2013.2.13.WED 18:00-21:00
会場_国際交流基金 JFICホール「さくら」

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P+ARCHIVE レクチャー&ワークショップ2011「実践 アート・アーカイビング」参加者募集

P+ARCHIVE レクチャー&ワークショップ2011「実践 アート・アーカイビング」

「実践:アート・アーカイビング」は、アート・アーカイブへの理解を深めるためのレクチャーや、文書管理の基礎的なスキルを学ぶ連続ワークショップを通じて、アート・アーカイビングにかかわる実践的な人材育成を目指します。
そこで、この度レクチャー、ワークショップへの参加者を募集いたします。
アート・アーカイブに関心のある方、学生、NPO関係者、アーティスト、アート活動に関心のある方どなたでも参加できますので、ご興味のある方はお気軽にご応募ください。
先着30名の募集となっていますのでお申し込みはお早めに。

→詳細、応募フォームはこちらから

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デジタル・アーカイブ公開のお知らせ

デジタルアーカブ
国内外の「地域、社会に関わるアート」の関するプロジェクトの基礎データを紹介しはじめました。プロジェクト名、作品タイトル名、アーティスト名などで検索ができます。

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未建築な建築/この未完なものの素晴らしさ

藤原惠洋 (九州大学大学院芸術工学研究院教授・建築史家・工学博士)

1.プロローグもしくは建築の省察への径(みち)
2.小屋への偏愛
3.津久見市のミカン小屋との邂逅
4.ミカン小屋の建築性
5.ミカン小屋の成立の背景
6.今和次郎の感受性で
7.建築の初源へ

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アーティスト イン 空き家 2002 京島

10/13-11/10/2002 (作品展示11/9-10)墨田区京島地区

この「アーティスト イン 空き家 2002」プロジェクトは、2000年、慶應義塾大学三宅理一研究室の主導により、墨田区京島地区を活性化を促すアクション・プランとして始められ、今回は2回目となる。地域振興という目標のもと、北欧のアーティストを招き、積極的な住民参加を働きかけた前回に対して、今回はアートが本来持っているはずの可能性を地域と関係づけることを中心課題としたという。この下町の街並みと人間関係がいまでも息づく京島で、ふたりのフランス人アーティストがこの地域に住み、この地域をどのように知覚し、作品化してゆくのか、そしてその作品が地域のひとびとにどのように共有されてゆくのだろうか。

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宮島達男 和泉シティプラザの高齢者参加によるアートワーク 「Time Garden」時の庭 2003

2003年4月オープン予定の「和泉シティプラザ」に、宮島達男氏が市内の高齢者の参加により「Time Garden」を完成させた。建物の中央に穿たれたヴォイド、直径20mの竹林庭園のなかに120個のエメラルド・グリーンのデジタル・カウンターが散りばめられ、幻想的な光を放つ。竹のもつ生命感とともに、ひとつひとつの光はひとりひとりの輝く生命を点灯し続け、永遠に絶えることのない命の営みと時間の循環とを映し出す。

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