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2013.12.27

[カフェレポート] 第1回 Archivist Networking Café

11月1日に、第1回アーキビスト・ネットワーキングカフェが開催されました。今回のテーマは『試行錯誤のアーカイブ~「とびらプロジェクト」と「取手アートプロジェクト」の語り合い』です。ゲストに、伊藤達矢さんと奥村圭二郎さんのお二人をお招きしました。

伊藤達矢さんは、東京藝術大学と東京都美術館の連携事業である「とびらプロジェクト」のプロジェクトマネージャとして、現在進行形のアートプロジェクトのアーカイブ方法に関して実践の場から研究をされています。
奥村圭二郎さんは、茨城県取手市と市民、東京藝術大学の三者が共同で行っている「取手アートプロジェクト」(通称「TAP」)の事務局として、アーティスト・市民・行政・大学をつなぐ役割を担いながら、主に財務面を統括されています。
お二人は、実はTAPで一緒に活動されていた時期もあるそうで、トークはとても和やかな雰囲気のなか始まりました。

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TAPは1999年にスタートし、今年で14年目を迎える歴史のあるプロジェクトです。2010年には特定非営利活動法人取手アートプロジェクトオフィスが設立され、現在はNPOが事務局機能を担っています。
アーカイブの具体例として、まず1999年から2008年まで発行していたカタログの紹介から始まりました。当初は開催情報や作品などを掲載していましたが、2005年から編集の方針を変え、参加者のエピソードなどプロセスも残すように変化したそうです。奥村さんによると、こうした報告書や写真などの資料は、事務処理上自然とアーカイブされていきますが、定量化できないものをアーカイブすることが非常に難しいとのことでした。
そこで、報告書のような体系的に整備されているアーカイブだけでなく、個人の気持ちや気づきを細かく残していけるように、「ポジティヴフィードバックの会」という振り返りの会を実施したそうです。「その場にいた人しかわからない感覚を自分たちで言葉にすることで新しく価値化していく」という作業の積み重ねが重要であり、そのための新しい試みを常に模索し続けているようでした。そして、そのような積み重ねこそが、長期的な視点に立つと「アートプロジェクト自体の価値化」にもつながるとのご指摘がありました。

一方の「とびらプロジェクト」は、2012年4月にスタートしたばかりの新しいプロジェクトです。
 まず、「レコード・コンティニュアム論」のアップウォードの図式の紹介から始まりました。伊藤さんによると、これまで一般的なアーカイブの議論は、現用(使用中の資料)、半現用(参照はするが変更はしない中間書庫行き資料)、非現用(使用・参照しない資料)に区分されるライフサイクル論が用いられることが多く、一般公開される資料の大半は「非現用」だったそうです。しかしながら、今の社会は記録媒体が多様になり、記録もとへのアクセスが容易となったため、活動の早急な説明責任が問われるようになってきているとのご指摘がありました。そのような社会状況を反映して、アップウォードの図式の一次元から二次元にひきあげる双方向的な関係が理想的であり、たとえば、写真・映像・ブログなど、それぞれを双方向的に関係づけることが、アートプロジェクトでは重要なポイントであるとのことでした。

「レコード・コンティニュアム論」のアップウォードの図式

「レコード・コンティニュアム論」のアップウォードの図式

その実践的な試みとして、「議事録をホワイトボードでとり、写真で記録し、プロジェクトの構成員がウェブ上で共有する」という方法が紹介されました。後日、参加できなかった構成員もウェブ上のホワイトボードにコメントをつけることができるようになっているため、情報共有とコミュニケーションが同時に行われます。つまり、議事録という単なる「記録」ではなく、かかわった人の「記憶や想い」もすくいあげられるような仕組みになっているのです。そして、このような一次元から二次元へとひきあげるプロセスを、プロジェクトの構成員に意識的に楽しくおこなってもらうためには、何より初期段階における制度設計が重要とのことでした。
そこで必要とされているのが、「レコードキーピングの専門家」です。「アーカイブがプロジェクトのエネルギーに直結している」ということを認識し、アーカイブの手法を設計、管理しながら、それをプロジェクトの構成員に伝えることのできる人が、アートプロジェクトの現場には必要とのご意見でした。

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お二人のお話を伺い、アートプロジェクトそのものに、「まだ価値化されていないことを価値化していく」という側面があるため、アーカイブにおける「小さな価値化の積み重ね」は、まさにアートプロジェクトの醍醐味なのだと感じました。今回のテーマの通り、アーカイブはまさに試行錯誤の連続であり、専門家の活躍が期待されている分野です。今後、ますます議論が深まることでアーカイブが楽しく実践され、アートプロジェクト自体が少しずつ社会に広がり根付いていくことを期待しています。

(とびらプロジェクト アート・コミュニケータ / 小野田 由実子)