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2014.03.14

[ラボレポート] 第2回 Art Archives Kit Lab

2013年12月20日に開催された第2回アート・アーカイブズ・キットラボでは、株式会社イトーキ ファイリング研究室室長の斉藤研祐さんを招き、文書管理(ファイリング・システム)のプロの立場から見たアート団体の文書管理のあり方についてお話しいただきました。

今回の話に当たり、斉藤さんには事前にアート団体を訪問してもらい、その文書管理のあり方を見て頂きました。現場の状況を見た斉藤さんは、アート団体の文書管理に欠けているものとして、「共有化」と「一覧性」の2つを挙げました。共有化とは、全ての組織における文書管理の基本であり、組織の誰もがいつでも簡単に文書を検索できるようにする体制を意味します。次に一覧性とは、文書を収める容器を統一するなど保存環境を整えることで、文書全体を把握しやすい状況におくことを意味します。
では、共有化と一覧性をどのようにして実現するのでしょうか。

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第一段階として、文書を収める容器を統一することで一覧性を確保します。全ての文書を見出しガイドが付いたフォルダーに収め、さらにそのフォルダーをキャビネットに収納すれば、フォルダーの見出しを見るだけで資料の所在を確認することが出来るため、ただ資料を棚に並べておくよりも格段に資料が探しやすくなります。また広く使われているバインダータイプと比べて、文書を収めるための穴を空ける手間が省ける、抜き取るために開け閉めするが必要ない、より薄いためスペースを効率よく使えるなどの利点があります。

第二段階では、より検索が容易になるよう関連するものごとにフォルダーをまとめて分類してゆきます。フォルダーはまず大分類(アート・プロジェクト別など)に分類し、以下必要に応じて中分類・小分類と細かく分類して、フォルダーの左から順に大・中・小分類を示すラベルを添付してゆきます。また斉藤さんによりますと、1つの分類に15冊以上のフォルダーが集まった時、より細かく分類してゆけば、効率的な分類が実現できるとのことです。

以上の作業を行えば、今現在保有している文書の管理状況は大きく改善することができます。しかし、文書というものは組織が活動している限り作成され続けていきます。アート団体の事務所の多くは、ビルの一室などスペースに限りがある場所に置かれているため、全ての文書を保存し続けることは出来ず、増えてゆく文書をどうやって整理・廃棄するかという問題が出てきます。

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斉藤さんはまず文書は予算書など毎年作成される「年度別ファイル」と、単年度のイベントなど毎年作成されない「資料扱いファイル」の2つに分けられるとおっしゃいました。年度別ファイルは毎年作成されるため、ただタイトルを付けるだけでは他年度の文書と混同しやすいので、タイトルに必ず作成年度を付けると見つけやすくなります。そして、毎年作成されるということは、量が増えやすいうえ、作成されてからの年月が経つごとに見る回数が減る、つまり保存する意味が失われてゆくことを意味します。この保存する意味を失った年度別ファイルをどうやって整理するのかというルールを作ることで、文書の廃棄が容易になります。

年度別ファイルは次のような過程で整理・廃棄されます。年度が経過するごとに、当年度用のキャビネットから前年度用のキャビネットへ、さらに事前に定められた保存年限を迎えていないフォルダーは保存箱に収められてから書庫へと移されて保管します。この時に保存年限を迎えた残りのフォルダーはそのまま廃棄されます。
一方、資料扱いファイルはすぐに書庫へ移されることはありませんが、ある程度年月が経過すると年度別ファイルと同じ様に資料を見る回数が減ってゆきます。その際には、当年度用のキャビネットから直接保存箱に移し、書庫で保管します。斉藤さんはこの廃棄までの過程を「流れ」、または「流す」と表現していました。

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次に保存箱に文書を移す時のルールをご紹介いただきました。まず、後で廃棄しやすいよう廃棄される時期を揃えて保存箱に収めます。しかし、箱に入れてしまうとどの文書がどの箱にあるのが分かりにくくなってしまうので、箱ごとに収めている文書についての情報をまとめた「文書保存カード」を作成します。文書保存カードをオフィスで管理することで、作成から廃棄のプロセスで、常に誰もが簡単に文書を検索できる共有化を実現することが出来ます。

斉藤さんはここまでは紙文書の文書管理のルールについて話されてきましたが、そのルールは電子文書の管理にも適用することができるとおっしゃいました。まず電子文書を収めるフォルダーにタイトルとその保存年限を入力して、紙文書と同じように関連するものごとにまとめ、大分類・中分類・小分類に分類していきます。そして、年度ごとに、紙文書と同じ考え方で「流す」ことで不要となった電子文書を整理・廃棄していくことができます。

最後に、文書管理の効率を上げる手段として、クラウドサービスの利用も提案されました。文書を共有しやすいという点がクラウドサービスのメリットですが、イトーキが提供しているクラウドサービスではあらかじめ文書の保存年限を設定しておけば、保存年限を迎えた電子文書を自動的に廃棄するシステムになっているそうです。

今回のお話は、文書の整理と管理を疎かにしがちなアート団体にとって、文書管理体制を構築するノウハウを具体的かつわかりやすい形で解説して頂く貴重な機会となりました。

(アーキビスト 松井隆)