ART & SOCIETY RESERCH CENTER

P+ARCHIVE

2014.02.07

[カフェレポート] 第2回 Archivist Networking Café

2回目のアーキビスト・ネットワーキングカフェでは、20年に渡りアーティスト・イン・レジデンス(以下、AIR)事業を行っているアーカスプロジェクトの活動概要と2010年から始められたアーカイブプロジェクトの説明を、2011年度までアーカスプロジェクトにてディレクターを勤めた小田井真美さんからしていただきました。
まずは案内用のVTR上映があり、概要説明、そしてアーカイブプロジェクトが開始された経緯と報告と続き、質疑応答となりました。

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アーカスプロジェクトは、新進アーティストの支援と地域の活性化を目的に、茨城県守谷市を拠点に1994年から行われている事業で、公金による国内初の現代芸術分野のアーティストを支援する芸術家レジデンスです。「もりや学びの里」内にあるスタジオを中心に、3~4人の新進アーティストを呼び、2-3カ月の滞在中に作品を制作するという形式をとっています。

アーカスプロジェクトがアーカイブプロジェクトを開始したのは、事業の更なる継続のためでした。NPO化の可能性を前に、20年に渡る活動実績と評価を集め、意義を明らかにする目的で行われたのです。
まず行われたのが資料の洗い出しです。インターンを起用し、

  • 年次報告
  • 事業運営に関わる基本的な提出書類
  • 招聘アーティストに関するもの
  • 地域活動関係
  • AIRに関するもの

といった、残っている資料を整理しエクセルで表にして、Dropboxで共有していきました。足りない素材を洗い出し、アーティストやスタッフ、地域の人に聞きとりやメール等で調査を行いました。アンケートや追跡調査が可能な人へはインタビューを行い、過去に招聘したアーティストの現在の活動を紹介する展示とイベントも行われました。

アーカスプロジェクトの資料には、主にプロジェクトを行うための準備段階のもの、現在の活動を記録したもの、そしてプロジェクトの後にアーティストの活動を追ったものがあります。
準備段階のものには守谷市等、外部とのやり取りや契約書があります。現在のものでは、活動中の写真を意識的に残しているそうです。アーカスプロジェクトでは契約で作品自体は管理しないためです。そして未来の資料として、関係したアーティストの連絡先、その後の活動についてもフォローしたものです。国際的に活動する新進アーティストの活動支援と育成をプロジェクトの目的にしていることから、アーカスプロジェクト(アーティスト・イン・レジデンス事業)の若いアーティストに対する成果を調査するためです。
今後はアーカイブプロジェクトで収集された資料を元に分析を行い、20年間の現代アートのあり方、地域活性化を期待されるアートプロジェクト活動が地域にどのような影響を与えたのか、そして日本におけるAIR事業の変遷を明らかにしていくとのことでした。

また、このように集めた資料をライブラリー化して閲覧・利用可能にし、公益化を考えているとのことです。ただし、アーティストやプロジェクトとの関係、目的、期間、公開範囲等、運営方針については精査が必要としています。

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このアーカイブプロジェクトに大きな影響を与えた一つとして、2011年3月11日の東日本大震災があります。3.11で収集・整理した資料が散乱、更に事業開始から拠点となっていた「もりや学びの里」が耐震工事のため一時移転することとなり、資料の保管とスペースの問題が出たのです。
資料の量を制限するために、年間400~500人ある応募のうちから、1次審査を通過していない応募書類は廃棄したり、近年は応募をwebベースで行っているので、電子データで保管しているとのことでした。
印象的だったのは、「資料整理を内部の人が行うと捨てられない」という言葉でした。対策としてはルールやガイドラインの策定が必要とのことですが、内部の人間では難しいだろうなというのは感じました。

アーカイブプロジェクトの課題についてもあげられました。 例えば、記録として写真など大量の資料を残して、ブログにアップして情報公開しているそうですが、その内から報告書にどれを選び、どう編集するかの判断が難しいとおっしゃっていました。また、扱いにくい資料として90年代の映像資料があるそうです。90年代というのはつい20年前と時間の上では近いといえます。しかし近いが故に保存の対象から外れてしまい、意外と資料が残っていないそうです。また、残っていてもビデオカセットなど今では使われていない媒体が多く、利用するのが難しかったりします。更に再生できても、活用するには著作権や肖像権を処理する必要があります。
資料の選定や公開、保存媒体の陳腐化(技術の進歩により、現在では使えない古い規格となってしまうこと)、権利問題という課題は、どのような形であれアーカイブプロジェクトについてまわる問題で、カフェの参加者から同意や意見などが出された部分でした。

質疑では、Webで管理しているデータの保存場所方法についてや、Webでの公開の検討について、守谷市の資料管理等がなされ、P+ARCHIVEの形式を参考にすると良いのではないかというサジェストが、参加者からもなされる場となりました。

二回目のカフェは、実際のアートアーカイブプロジェクトの試行錯誤をうかがうことで、アートプロジェクトやアーカイブ活動の問題点やツールの活用方法、キットに必要なこと等、具体的なイメージを持つことができたのではないかと思います。

(国立国会図書館 / 松永 しのぶ)