ART & SOCIETY RESERCH CENTER

P+ARCHIVE

2012.01.31

P+archive2011第4回ワークショップ「アーカイブズの保存と防災」報告

第四回WSの様子(前半)

第四回WSの様子(前半)

第4回ワークショップでは柴田葵さんをファシリテーターとして、アーカイブズをどれだけ長く保存することができるのか、長期間の保存を阻む要因・リスクとは何かということについて学びました。

ワークショップの前半では、欧米の図書館において紙の劣化により貴重な図書が物理的に焼失してゆく様を描いた「Slow Fires」、現在主流となっているデジタル記録がどれほど早くかつ大量に失われてゆく様を描いた「In to the Future」というアーカイブズの脆弱性を訴えた海外ドキュメンタリーや、柴田さんによる温湿度や光、害虫、災害、事故といった資料を劣化させる様々な要因、紙・磁気記録・光記録といった記録媒体の保存に関するそれぞれの特色についての解説などを通じてアーカイブズの保存に関する理論についての解説を聞いた後、実践としてP+archiveで保管されているアーカイブズの中でも保存状態の悪い資料の実物の確認を行いました。その中で食品を使用したアート作品のサンプルがそのままアーカイブズとして保管されているのを見て、食品という公文書館や史料館等の一般的なアーカイブズではまず考えられない資料が存在していることに驚くと同時に、アーカイブズというものがどれほど多様性に富んでいるのかということを再確認しました。

第四回WSの様子(双六形式ゲーム)

第四回WSの様子(双六形式ゲーム)

後半からは柴田さんが作成されたASG(Archives Simulation Game)という双六形式のボードゲームを出席者が全員でプレイしました。このゲームはさいころを振って上がりを目指しながら、出たさいころの目の数に応じて「資料」カードと疑似貨幣を取得し、様々なイベントをこなしながら誰かがゴールするまでに「資料」カードをどれだけ集められるかを競うものです。「資料」カードには紙や写真、CDなど様々な種類のカードが用意されており、中には対策が必要な「保存状態が悪い」カードも存在します。イベントにも「資料」カードを得られるプラスとなるものがあれば、逆に資料を失う災害や事件といったマイナスになるものが存在します。疑似貨幣を使って対策を建てればマイナスのイベントを回避することもできますが、むやみに使ってしまうと貨幣が尽きて大事な時に身動きがとれなくなってしまう恐れがあります。全体のバランスを取りながら先のことを想定して対策を練っていくその様子はまさにアーキビストの業務そのものです。現在では未完成であるため、イベントや選択肢の数が少ないといった不満点はありましたが、プレイの方は大変盛り上がり参加者全員が大変楽しんでいました。一通りプレイした所、イベントの内容をすごろくの目で決める、保存状態が悪い資料への対策の選択肢を増やす、ゴールを目指す普通のすごろくではなくモノポリーの様な周回型にしてみるなど感想が思い浮かびましたが、アーカイブズに関心のある人だけではなく、アーカイブズのことを詳しく知らない一般の人でも、アーカイブズの保存とはどの様なものかを楽しく伝えることの出来る素晴らしい教材になりうるものであると思いました。

(P+archiveゼミ受講生 松井 隆)