パブロ・エルゲラ著 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

ソーシャリー・エンゲイジド・アートを学ぶ人、教える人、実践する人の必携書!

ソーシャリー・エンゲイジド・アートとは、アートはもちろん、教育学、社会学、言語学、コミュニケーション学などさまざまな分野を横断したアクティビティである。他の分野で得られた知見を活用しながら、プロジェクトを組み立て、コミュニティと深く関わり、社会にポジティブな影響を与えると同時に、アートとしての役割を失わないための、知識とテクニック、そして心構えを説く。

41n8EJUdvDL<著者紹介>
Pablo Helguera 1967年メキシコシティ生まれ。ニューヨーク在住。ビジュアル&パフォーマンス・アーティスト、教育者、著述家として幅広く活動し、2007年からはニューヨーク近代美術館(MoMA)の教育課でアダルト&アカデミック・プログラムのディレクターを務めている。同時に、ソーシャリー・エンゲイジド・アートを教育に結びつけて推進する第一人者でもあり、2011年に出版した『Education for Socially Engaged Art:A Materials and Techniques Handbook』をは、アートスクールや大学の教材として広く採用されている。

日本語訳『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』が2015年3月23日
フィルムアート社より出版!

SEA入門書
Socially Engaged Art
ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門  
アートが社会と深く関わるための10のポイント  
2015年3月23日(月)フィルムアート社より発売!  
パブロ・エルゲラ=著
アート&ソサイエティ研究センター SEA研究会=訳
本の詳細

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第4回 「Community」後半を読む (2013年11月8日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

Ⅱ Community (後半pp.19〜25) を読む

    長期間のコミットが成功を生むのか?オーディエンスは予め設定できるのか?

    < C.ヴァーチャルな参加 : ソーシャル・メディア>
    <時間と努力>
    <オーディエンスに関する質問>

    ソーシャル・ネットワークはコミュニケーションに新たな流動性をもたらし、作品が継続展開してゆく有効な手段となるだろう。一方でSEAは個人、地域をより直接的につなぐ手段として盛んになっているともいえる。このように、SEAはオーディエスと密接に結びついており、そこには潜在的にオーディエンスが存在するといえる。加えて、最も成功するSEAプロジェクトは長期間にわたり特定のコミュニティのなかで活動し、アーティストが参加者を深く理解して展開された場合である。しかし、資金提供者にオーディエンスや場所の要素を予め規定される場合には、難解な作品を、関心や課題が全く異なるコミュニティへ売ろうとする結果になることもある。そのためにもSEAにおいて、アーティストはオーディエンスを明らかにし、彼らに伝えたいメッセージを、自身のなかで明確にしておかなければならない。

    ディスカッション

     

  • ヴァーチャルな社会環境がソーシャル・ネットワークを強化して、社会的な活動やSEAに与える影響は大きいが、SEAはヴァーチャルな関係性が全盛のなかで、アーティストとより直截な関係により、参加者が時間や空間を共有しコミュニケートする手段として重要な役割を担っているといえる。
  • 著者は「SEAは長期間にわたり特定のコミュニティにコミットする場合成功する」と述べている。
  • そのベストな例: CuratorであるMorinがLaosやShakersのコミュニティに数年間介在して、複数のアーティストを招聘してプロジェクトや展覧会をおこなうというもの。妻有など、日本でおこなわれている活動と同じなのか、違うのか、他の事例を含めて精査する必要がある。
  • 著者が「オーディエンス」をどのレベルで捉えているのか?「参加者」と述べる場合とどのように違うのか、その辺りが明確にされていない。より精査して、レベルにおける差異を検討すべきである。
  • 資金提供者によって目的、期間や参加者のフレームが規定されお膳立てされている場合、アーティストが独自のモチベーションをもつことが難しいし、予定調和的な結果になってしまうことが多い。
  • 特に、海外に比較して、日本の場合はアーティスト主導の活動が少ない。そのなかで、アーティストが話しかけたいオーディエンスと伝えたいコンテクストを明確化することは可能なのだろうか?
  • アーティストが社会における問題意識に関心を寄せ、自らのメッセージを伝えるべき相手を想定できるか?それは教育やトレーニングの課題ともいえるだろう。
  • これはアーティストの存在価値を考える上で重要な要素のひとつだといえる。
  • (モデレーター 清水)

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第3回 「Community」前半を読む (2013年10月18日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

Ⅱ Community (前半pp.9〜18) を読む

    SEAがコミュニティの絆を築く限りにおいて成功か? アートとソーシャル・ワークとの違いとは?

    <A. コミュニティの構築>
    <B. 多層的な参加の構造の構築>サマリー
    SEAプロジェクトはコミュニティと強い関係性をもち、コミュニティ構築のメカニズムとなっている。しかし、SEAはどのようなコミュニティの構築をめざしているのだろうか? SEAがコミュニティの絆を築く限りにおいて成功か?SEAのゴールは社会の価値を肯定する(調和)のか、社会の課題を非難する(対決)のか。 
    SEAの場合、そのプロセスそのものが社会的であり、一般の人びとが受け手という役割を超えて活動し、プラットフォームやネットワークを形成し、プロジェクトの効果が長期的に継続されることが強調される。そのなかで起こるインタラクションには、名ばかり、シンボリックなインタラクションと、アイディア、経験、コラボレーションが徹底的、深層的、長期的に交換される場合とがあり、それらは同等視できない。なぜなら、両者のゴールは違うからである。
    SEAでは多様な参加の層があり、実験的に、1. 名目の参加、2. 指示された参加、3. 創造的な参加、4. 協働の参加に分類できる。このような参加の枠組は、ゴール、作品評価、コミュニティ構築手法の評価に深く関係している。加えて、ソーシャル・ワークの場合のように、自発的、強制的、無意識など個々人の参加のあり方を認識することも重要である。

    ディスカッション

     

  • 参加者、鑑賞者、オーディエンス、ビジターなど、アート特有のことばもでてくるが、参加のレベルによる呼称の差異なども認識すべきである。
  • コミュニティの絆を築く限りにおいて成功か?社会の危機的状況や課題を顕在化させ、解決策を見つけようとする、政治的または反体制的な活動もあるだろう(Santiago Sierraの事例など)。
  • SEAのクライテリアや評価の軸は、その多様性ゆえの微妙なぶれが見られる。
  • アートとしてのアウトプットか(Bishop)、対話によるコミュニティ形成か(Kester)の議論があるが、そのバランスのあり方、アートとしての存在価値などを踏まえながら、我々もSEAのクライテリアと評価の軸を明確化していく必要がある。
  • アーティストの役割とは?ソーシャル・ワーカーではない、アーティストでなければならない特性とは?これを明確化することは、アーティストの教育の場で役立つだろう。
  • プロジェクト終了後も、参加者が自分たちで継続していけるようempowerされることが重要とあるが、その場合、アーティストの意図から新たな展開に向かうこともある。
  • その場合、アーティストのauthorshipとコミュニティのownershipの問題もでてくるだろう。
  • 著者は参加のレベルが1→4に向かうに従って成功につながるという考えであるといえるだろう。
  • 長時間のわたり地域にコミットするSEAはベストなプラクティスにつながると言っている(例 France Morinの活動)。めざすゴールが何なのか?観光振興、まちおこしに終わっていないか?を見極める必要がある。
  • 歌や音楽の場合、再現性が高く、拡がりやすいので、むしろ多くの人びとに共有され、個々人の意識に影響を与える可能性が高いのではないか?
  • アートはより直接的な介入、フェース・ツー・フェースのつながりによる活動が主流である。それによるメリットがあるはずである。アーティストの存在価値につながる可能性?
  • 一方で、藤浩志の「かえっこ」のように、OSを提示した後はアーティストが不在でもシステムとして機能するようなプロジェクトもある。
  • 今後、より多様なSEAの事例を検討して、参加のレベル、個々人の参加のあり方による結果の違いについて明確化していく必要がある。
  • (モデレーター 清水)

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第2回 「Definition」を読む (2013年10月4日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

Ⅰ Definishion (pp.1〜8) のポイント

  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、コンセプチュアル・プロセス・アートの様式に属する。しかし、全てのプロセス・ベイスト・アートがソーシャリー・エンゲイジド・アートではない。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートには、社会的な関与(エンゲイジメント)が必須である。
  • 過去数十年、社会的な交流(インタラクション)に基づくアートは、様々な名で呼ばれてきた。
    relational aesthetics、community art、collaborative art、participatory art、dialogic rt、public art
  • 最近では、social practice と呼ばれることが多いが、この名称からは、アートメイキングとの関連が排除されてしまっている。
  • <分野のはざまで>

  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートには、本来アートメイキングの要素が備わっている。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、アートとして認められながらも、伝統的なアート様式と社会学、政治学など関連する分野との間の居心地が悪いポジションに座っている。しかし、そのポジションこそがこの種のアートの特徴である。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、通常は他の分野に属するテーマや問題に関わりながら、それを一時的にあいまいな空間に移動させる機能をもっている。
  • 対象を一時的にアートメイキングの領域に引っ張っていくことで、特定の問題や状況を新しい見方でとらえたり、他の分野に対して目に見えるものにしたりできる。こういった理由から、この種の活動に用いる最適な用語はやはり「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」である。
  • <象徴と現実のプラクティス>

  • 政治的、社会的な動機から始まっていても、アイデアや問題を象徴的に表現するだけ(represetation)の行為はソーシャリー・エンゲイジド・アートではない。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートに関わるアーティストは、公共圏(public sphere)に影響を与える集団的アートをつくりだすことに関心がある。
  • どんなソーシャリー・エンゲイジド・アートプロジェクトも、政治的・社会的立場を明確にすることを前提としている。
  • 「社会的交流social interaction」がソーシャリー・エンゲイジド・アートの中心であり、欠くことのできない要素である。ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、ハイブリッドで分野横断的なアクティビティであり、アートと非アートの中間のどこかに位置する。ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、想像や仮定ではなく、現実の社会的行為に基づくものである。

    ディスカッション

  • 「ソーシャル・プラクティス」という言葉は、アート関係者ならソーシャリー・エンゲイジド・アートのことだと分かるが、一般の人はアートと結びつけることはできない。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートのコアに「アート」があることは、しっかり認識する必要がある。
  • 欧米のソーシャリー・エンゲイジド・アートは、具体的なソーシャル・チェンジと結びついて、都市で行われることが多いが、日本のアート・プロジェクトは、地域おこしを目的として地方で展開されることが多い。プロデュース型のアートエキジビションと同じで、それぞれのアートワークの目的(社会との関わり)が曖昧になる傾向がある。
  • 日本では、国外の活動と比較すると、社会とアートの関係性の可能性が十分開拓されていないのでは?
  • (モデレーター:秋葉)

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第1回 「Introduction」を読む (2013年9月6日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

Introduction (pp.ⅸ〜ⅹⅵ) のポイント

  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートの理論化のプロセスが急速に進んでいるのに比べて、その実践における技術的要素についての議論はゆっくりとしか進んでいない。
  • この本の目的は、理論をめぐる論争やアイデアをうまく適用した事例を紹介しながら、「いかにアートを社会領域で用いるか」について、いくつかの手本を提供することである。
  • アートと教育のプロセスは類似している→社会にエンゲイジするアートワークへの挑戦は、教育分野の助けを借りればよりうまくいくだろう。
  • 第二次大戦後の北イタリアのレッジョ・エミリアで始まった幼児教育法から学ぶ。
  • 本書は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートを規定する体系や実地訓練を提案するものではない。また、この種のアートのベストプラクティスを提示するものでもない。様々な分野(教育学、社会学、言語学、民族誌学など)から得られた知見に基づいて、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの実践に役立つ技術をまとめたものである。
  • ディスカッション

  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートを美術史の文脈の中でどのように位置づけるかについては、ケスター、ビショップなど研究者の間でも議論があるので、今後それらの議論も踏まえていく必要があるだろう。
  • 日本でもアート・プロジェクトの結果をどのように評価するのか、未だコンセンサスが形成されていないので、海外のケースを知ることは有用だろう。
  • 教育分野をはじめ、文化人類学、地政学などの方法論はアートにも応用できるので、このような分野でアートにも関心がある人々とのネットワークづくりが重要だ。
  • レッジョ・エミリア方式については、もう少し詳しく調べよう。
  • この本は、理論書、マニュアル本、ベスト事例集のどれでもない。いわば、社会にエンゲイジするアート活動に関わる人にとっての“心構え”を書いたものにあたる。
  • (モデレーター:秋葉)

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