ヒロシマ賞受賞アーティスト メル・チンが語る 「気候危機とエンパシー」

環境危機や社会課題にアートは何ができるのか

NPOアート&ソサイエティ研究センターと環境総合誌『BIOCITY』は、現代社会が抱えるさまざまな課題に、人々とともに行動し、向き合う、新しいアートの潮流に注目し、書籍刊行、展覧会、トークイベントなど、さまざまなかたちで紹介してきました。
昨年、その牽引者の一人であるメル・チン氏が、ヒロシマ賞を受賞し、7月25日より広島市現代美術館で受賞記念展が開催されます。この機に、来日するメル・チン氏を招き、東京での講演会を企画しました。受賞記念展で新たに発表される、「はだしのゲン」の作家、中沢啓治氏へのオマージュ作品や、エンパシー(共感)の輪を拡げていくアート・プロジェクトの紹介を通して、気候危機などの深刻な問題に対し、アートがいかに社会的意識と責任を喚起しうるかを、語っていただきます。

開催概要

日 時|2026年7月30日(木)18:00開場 18:30開場
会 場|コクーンホールB(新宿・コクーンタワー3F)
定 員|150名(事前申込制)
参加費|一般:1,500円(会場・オンライン共通)
学生:無料(会場・オンライン共通)※当日学生証の提示必要
主 催|特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター+BIOCITY
協 力|国際ファッション専門職大学(PIIF)
プログラム|18:30〜19:30 メル・チン(Mel Chin)講演
19:40〜20:10 対談 メル・チン+大西若人氏(朝日新聞編集委員)
※講演と対談は逐次通訳あり

お申し込み

下記Peatix専用ページよりお申し込みください。
Peatix

登壇者紹介| メル・チン Mel Chin

photo credit: Miriam Heads

1951年、アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン生まれ。1975年にテネシー州ナッシュビルのピーボディ・カレッジで文学士号を取得。1980年代から社会問題に踏み込んだアーティスト活動を開始する。彫刻、ドローイング、絵画、ビデオ、アニメーションから大規模なインスタレーションまで、多様な表現形式をサイエンス、テクノロジーと融合し、環境汚染や気候変動をはじめ、暴力、植民地支配など社会・政治に関わる複雑な問題に独自のアプローチで切り込んでいる。また、コミュニティを巻き込んで地域の課題に向き合い、長期にわたって展開するソーシャリー・エンゲイジド・アート・プロジェクトでも知られる。

代表作に、汚染された土壌を植物によって無毒化する実験的作品「リバイバル・フィールド」(1991~)、ベトナム戦争で使われた米軍の爆弾を模した竹製の立体を天井から吊り下げ、民主主義を標榜する米国の残虐な軍事行動を突く「私たちの奇妙な民主主義の花」(2005)、子どもたちの創造性を鉛中毒撲滅運動に結びつける「オペレーション・ペイダート/ファンドレッド・ドル札プロジェクト」(2006~)、ニューヨークのタイムズスクエアで、フィジカルな巨大彫刻と拡張現実(AR)を組み合わせ、気候変動と経済拡大の関係性を鋭く突くインスタレーション「ウェイク&アンムアド」(2018)、2014年から深刻な水道水汚染が続くミシガン州フリントで、住民が毎日捨てるペットボトル9万本を回収し、布地に再生。ファッション・デザイナーがそれを使った衣服をデザインし、非営利の女性就労支援施設で縫製し、リサイクル、産業、ファッション、地域の雇用創出を連結した「フリント・フィット」(2018)などがある。

こうしたメル・チンの40年以上にわたる活動は、美術の分野で人類の平和に貢献した作家の業績を顕彰し、核兵器廃絶と世界恒久平和を願う「ヒロシマの心」を広く世界にアピールする「ヒロシマ賞」の主旨に沿うものと評価され、今回の受賞となった。
現在メル・チン氏はノースカロライナ州西部の小さな行政区を拠点に、インターナショナルな活動を続けている。

【ヒロシマ賞受賞メッセージ】
この栄誉の重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。私の住む地域が人為的な気候変動による破壊に見舞われる一方、私は、絶望に打ちひしがれた無実の民間人に対して残忍な爆撃が続けられているのを遠くから目撃し続けていました。そんなとき、受賞の知らせを受けました。アメリカ市民として、私の責務は、否定しがたい加担を私に強います。ヒロシマ賞は、この弁解の余地なき残虐行為を支持することに抵抗し、そうした関与に異議を申し立てるという私の決意をさらに強固なものにしてくれます。この賞はまた、別の責務を私に課します。それは、複雑な思想や関係性を育み、それらを、暴力への抵抗と共感の拡大という理念の追求のための道具としていくことです。

2024年10月
ノースカロライナ州エジプト行政区にて
(受賞後のメル・チンのInstagramより)

登壇者紹介| 大西若人 Onishi Wakato


京都府生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同修士課程を中退し、87年に朝日新聞入社。東京本社、大阪本社、西部本社の文化部などで、主に、美術や建築について取材・執筆。同部次長などを経て、2010年より編集委員。現在、共立女子大学建築・デザイン学部客員教授、日本大学芸術学部大学院非常勤講師。ヒロシマ賞選考委員。26年、日本建築学会文化賞を受賞。著書に『ARTとカラダと現代建築』(現代企画室)。『森山大道とその時代』(青弓社)などにも寄稿。


トークで紹介される主なプロジェクト(予定)

「Revival Field」1991- リバイバル・フィールド
重金属で汚染されたミネソタ州セントポールのピッグズ・アイ埋立地において、土壌を植物の力で浄化し、それを可視化しようとするプロジェクト。チンは科学者のルーファス・チェイニー博士とともに、重金属を吸収することで知られるハイパーアキュムレーターと呼ばれる植物を、それぞれ亜鉛、銅、鉛の区画に分けて植え、3年間実験的に観察した。彼はその区画は環境改善の試験場であると同時に「彫刻作品」であると主張し、科学、技術、アートの先駆的コラボを具現化した。他にも、ペンシルベニア州パルマートンとドイツのシュトゥットガルトで実施され、エコロジー意識の向上がめざされた。

Revival Field, 1991. Photo: David Schneider.


 

「Our Strange Flower of Democracy」 2005 私たちの奇妙な民主主義の花
天井から、鉛筆を逆さまにしたような竹製の立体が吊り下げられている。これは、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン紛争で使用された米軍の悪名高い爆弾「BLU-82(通称デイジー・カッター)」を模したもので、アメリカが「民主主義の大義」を掲げながら、実際には圧倒的な軍事力(爆弾)という恐怖によって他国を支配・威嚇しようとする矛盾を強烈に皮肉っている。

Our Strange Flower of Democracy, 2005. Bamboo, river cane, burlap, coir, mahogany, steel, bottle caps, 457.2 x 548.6 cm (diameter). Photo: Judy Cooper, courtesy of the New Orleans Museum of Art.


 

「Fundred Dollar Bill Project」ファンドレッド・ダラー・ビル・プロジェクト」
「Operation Paydirt」オペレーション・ペイダート」2006

ハリケーン・カトリーナの後、メル・チンはニューオーリンズを訪れ、この災害を契機に喫急の課題となっている土壌の高濃度鉛汚染に対する創造的な解決策を見つけるプロジェクトを開始した。この汚染は特に子供の健康被害の元凶となることから、全米各地の学校でのワークショップを実施、子供たちが絵を描いて作った架空の100ドル札を通じて3億ドルを集め、それを、特製バンで連邦議会に運び、1枚100ドル換算で対策資金の拠出を求めたプロジェクト。

Students at Maury Elementary in Washington DC greet the Fundred Armored Truck. Fundred Project, 2008-2022. Photo: Yassine El Mansouri, courtesy Fundred Project.

Detail of Fundreds on view at Contemporary Art Museum Houston. Fundred Project, 2008-2022. Photo: Rick Gardner, courtesy Fundred Project.


 

「Wake and Unmoored」2018 ウェイク、アンムアド 
ニューヨークのタイムズスクエアに、19世紀のクリッバー船の骨格と当時の人気オペラ歌手ジェニー・リンドをイメージした巨大な立体彫刻作品(Wake)が設置され、その周囲で観客はスマートフォンやAR(拡張現実)デバイスを使って水没した未来のタイムズ・スクエアを体験する(Unmoored)。ニューヨークの繁栄をもたらした過去の経済活動が現在の気候危機につながっていることを人々にフィジカルとバーチャル体験で知らしめるインスタレーション。

Wake, 2018. Wood, steel, fiberglass, electronic and mechanical components, paint, 7.3 x 10.3 x 18.3 meters. Image courtesy of the artist.


 

「Flint Fit」 2018 フリント・フィット
深刻な水道水汚染が続くミシガン州フリントで、住民が毎日捨てる使用済みのペットボトルを資源に、希望に満ちた可能性を見出そうというチンの発案によるSEAプロジェクト。2018年、水危機が4年目に突入し、市民が依然として飲料水、調理、洗濯にペットボトルの水を使わざるを得ない状況にある中、チンとフリントの活動家グループは、空のペットボトル9万本を回収し、それらをノースカロライナ州グリーンズボロへのテキスタイル製造企業ユニフィに送り、生地に再生。ファッション・デザイナーのトレイシー・リースが再生生地を使った衣服をデザインし、その服はフリントにある非営利のコミュニティ支援施設セント・ルーク・N.E.W.・ライフ・センターで生産された。リサイクル、産業、ファッション、地域の雇用創出を連結して水危機に対応するSEAプロジェクト。


 
関連情報|第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展

広島市現代美術館では、第12回ヒロシマ賞の受賞を記念して「メル・チン展」が開催されます。日本初の個展となる本展では、40年以上にわたる代表作に加え、広島のために制作された新作も紹介されます。本トークでメル・チンの思想や社会実践に触れた後に展覧会をご覧いただくことで、その作品世界をより深く体感していただけます。

会期:2026年7月25日(土)〜10月18日(日)
会場:広島市現代美術館
詳細:https://www.hiroshima-moca.jp/exhibition/melchin

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