ART & SOCIETY RESERCH CENTER

P+ARCHIVE

2010.11.12

P+ARCHIVE第四回レクチャー「資料(マテリアル)を募る方法:アートプロジェクト、アートNPO活動等」報告

10月7日、AAN代表、武蔵野美術大学講師の嘉藤笑子氏を講師にお迎えし、第4回レクチャー「資料(マテリアル)を募る方法:アートプロジェクト、アートNPO活動等」が行われた。AANのプロジェクトを中心に、現在進行形のアーカイブの実際についてお話を伺った。

AAN(アート・オウトノミー・ネットワーク)という名称は、自律型、芸術独立機関のネットワークを築く組織を目指し名付けられた。2005年の立ち上げから、現在も法人化せずに活動している。立ち上げのきっかけの一つはミーティングキャラバンというネットワーク型の活動をしていた武藤勇氏との出会い。もう一つは、嘉藤氏が活動に携わっていたオルタナティブスペースであるRICE+が立ち退きにあい、3年ほどの活動の記憶が簡単に消滅していくことを経験したことにある。RICE+では元米屋を改装しカフェの運営やイベントを活発に行っていたが、そうした活動を何らかの形で記録化、記憶に留めることの必要性を感じたという。

横浜のBankARTで活動機会を得た期間に、AANの活動を開始。資料ボックスを展示し、空のボックスが将来埋まっていくというプロセスを暗示した最初のアーカイブ展を開催した。AANの入居をきっかけに北仲BRICK・北仲WHITEの両共同オフィスに集った50組のアーカイブも行い、WEB上で公開している。

AANのアーカイブの特徴は進行形のアーカイブということだ。アーカイブ自体は時代をさかのぼっていくのが基本だが、AANではそのプロセス自体、未来を含めたアーカイブが可能になる方法、リビングアーカイブを模索しているという。オルタナティブな組織という、それ自体が変化していくものをどうアーカイブするか考えた時、こちらも変化してついていくしかないと、フレキシブル、またはゆるやかなアーカイブの方法をとっている。また、収集しているのはいわゆる二次資料に近いという。しかし、今集めなければ消滅していくものと捉え、一次資料という意識で収集しているとのことであった。

そうしたアーカイブの方法をとる背景には、AANがいわゆるアーキビストの集団ではないことがあげられる。AANの活動の大きな2つの柱はアートアーカイブとネットワーク。資料の収集だけにこだわるのではなく、活動している人や活動自体に興味があるという。個々では弱い立場のオルタナティブな組織・活動でも、それらをつなぎ、集まることで力を持つことが可能となるのでは、との想いからネットワーク事業には力を入れてきた。2007年に横浜のZAIMで行ったショーケースでは全国から50組のオルタナティブ組織が4日間集い、自主プレゼンを行った。AANは地域にコミットした活動というよりも、芸術組織として芸術を発信することにモチベーションを持っている活動だともいえるという。

海外から学ぶため、イギリスのPILOTとの共同のアーカイブ展も開催。PILOTは100人のキュレーターが100人のアーティストを推薦しアーカイブ化する活動を行っている。アーカイブ展を開催するのもアーカイブを知ってもらう機会と考えている。

アーカイブ展の際にはポートフォリオミーティングというアーティストによる自主プレゼンの活動で集まったポートフォリオも展示。ポートフォリオミーティングはコマーシャルギャラリーや美術館で扱いのないアーティストのアピールの場となっており、様々な機会に開催されている。

現在AANが課題としていることは、現在進行形の活動に関するアーカイブをいかに構築・活用させるか、専門性とプラットフォーム性の両立、アーカイブの継続・営業面の問題であり、それは長年考え続けていることでもあるという。

さらに2002年から嘉藤氏がキュレーターとしてかかわっている沖縄のwanakioの活動、USTREAMの可能性について、また、AAN立ち上げの動機ともなったRICE+の活動についてお話しいただいた。

本レクチャーは、現在アーカイブプロジェクトを行っている私たちに直接かかわる内容であり、ネットワークや活動の支援といったアーカイブの持つ可能性についても考える機会となった。組織自体をアーカイブしていくのは非常に困難な活動であるかもしれない。しかし同時に、動いているアートの生の部分を捉えることのできる刺激的な活動でもあると感じた。

(P+ARCHIVEゼミ受講生 近田明奈)

(写真:村上友重)

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