ART & SOCIETY RESERCH CENTER

P+ARCHIVE

2010.11.26

P+ARCHIVE第五回レクチャー「生きた組織体としてのアーカイブ構築をめざして」報告

第五回レクチャー(11月11日)の講師であるドミニク・チェンさんは、ICC(NTTインターコミュニケーションセンター)で2003年から映像アーカイブHIVEの立ち上げに関わってこられた。

HIVEとはICCにおける活動全般の映像アーカイブであり、その特色は配信されているすべての映像にクリエイティブ・コモンズのライセンスが付与されており、非営利に限り誰でも映像をダウンロードし、好きなように加工し利用することができる点にある。このアーカイブを作ることになったきっかけは、1990年からのICCの活動記録である3000本ものDVテープが倉庫に眠っていてもったいないと考えたからだそう。

HIVEはユーザーと一緒に作っていくデジタルコミュニティである。現在、Webで公開しているのはICC内でのアーティストのトークやワークショップなどで、館内の活動記録はICCがすべて著作権を持っている。他方、メディアアーカイブの問題として、アート作品そのものの公開にはまだ至っていない。また、複数の施設同士でのコンテンツ共有の仕方が不確定であったり、どのように教育利用につなげるかなど、まだまだ素材としてのアーカイブ利用の増加や推進に際しては検討が必要である。

HIVEに活用されているクリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは、アーティストが自らの作品をどの程度までユーザーに利用されても良いかという意思表示をするツールのことである。ライセンスを付与していれば、作者と使い手が個々に契約を結ばなくても、事前に作者側の利用条件を守ることで二次使用が可能になる。これにより、本来の著作権を利用するよりも法務コストが削減されたり、分散保有という形で作品が保存され、例えオリジナルが無くなったとしても、他で利用されていれば別の形でアーカイブとして保有できる。つまりネットワーク全体が一つの記憶媒体になるということである。

この仕組みは現在53カ国で利用、6カ国で利用検討されている。そもそも創造的な作品の取り扱いを決める著作権は100年以上前に定義されているが、現代のネット社会には十分に対応できていないため、現在の法律の中でもっと自由な創造活動を目指ためのクリエイティブ・コモンズの誕生に至った。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスには4つのマークがある。「表示(作り手の名前を適切に表示すること)」「非営利(作り手の作品でお金儲けをしてはならない)」「継承(作り手と同じライセンスで発表すること)」「改変禁止(作り手の作品を改変してはならない)」である。作品には作者の意思に沿ってそれぞれマークがついており、それを見ることによりユーザーはどの程度まで二次利用できるのかがわかるようになっている。

現在、全世界で推定3億5000万件のコンテンツがライセンスで公開されており、例えばウィキペディアの記事一つ一つや画像共有サイトのフリッカーにおける5000万件の画像がライセンスの下で公開されている。またクリエイティブ・コモンズに登録されている素材を利用した教育支援プログラムや貧窮国の支援などにも活用されている。

日本でのNPO法人化は2007年。基本的には寄付によって運営されており、メルマガや携帯サイトのほか、シンポジウムなども開催している。主な事業は、ライセンスの日本語翻訳、技術的な質問への応対、勉強会、セミナー、インターンシップ、企業への事業相談、独自プロジェクトの立案などである。

このような背景には、公共情報インフラとしてのWebサービスの現状やソーシャルネットワークサービスなどの誕生による、人間と人間を介した情報共有の変化がある。その状況の中で生きたアーカイブの構築を目指すには、二次利用されて初めて情報は価値を持つことを理解し、Webで公開することの意味を積極的にくみ取っていかなければならない。

多数のユーザーに利用されうるアーカイブ作りを目指すためにも、インターネットの発展に伴う私たちを取り巻く現在の状況を十分考慮した上で、それを最大限活用していくことの重要性を考えさせられるレクチャーだった。

(P+ARCHIVEゼミ受講生 大川直志)

(写真:村上友重)

関連する投稿